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【感想】探偵がいないミステリって何?切り口が斬新な多重解決ミステリ(渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』)

私雨邸の殺人に関する各人の視点

館もののミステリと聞いたら、皆さんはどのようなストーリーを思い浮かべますか?

クローズドサークル、密室殺人、連続殺人などなど。いわゆるミステリのイメージが頭に浮かんだ人が多いかもしれません。

今回は館ものミステリの中ではかなり斬新な切り口となっている作品、渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』を紹介します。

嵐の私雨邸に取り残された11人の男女。資産家のオーナーは密室で刺殺され、世にも珍しい〈探偵不在〉のクローズド・サークルが始まる。館に集ったのは怪しい人物ばかり。いったい誰が犯人を当てるのか。各人の視点からなされる推理の先に、思わぬ悲劇が待っている。

探偵がいない館ものミステリ。クローズドサークルで起きた事件はどのような結末を迎えるのか。ネタバレなしで作品の紹介をしていきます。

クローズドサークルに閉じ込められた11人の男女

本作は私雨邸という屋敷で起こる殺人事件を描いた物語です。雨の影響で、期せずしてクローズドサークルになってしまった館が舞台となっています。

そこにいるのは11人の男女。屋敷の所有者である雨目石家の人間たちと、そこへ招かれたミステリ研究会の大学生たち、編集者、怪我をして迷い込んだ男性と、自殺に失敗した男性。彼らはたまたま滞在せざるを得なくなってしまったのでした。

そんな状況下で起きた殺人事件。なぜこのタイミングでなければいけなかったのか、そもそも動機は何なのか。ミステリとしての色は濃い作品となっています。

探偵がいないからこその展開がお見事

本作は主に、3人の登場人物の視点で物語は進んでいきます。ミステリ研の大学生、雑誌編集者、雨目石家の長男のそれぞれの視点で、話が語られていきます。タイトルの通り、各人の視点で事件が描かれているのです。

ミステリ研の大学生の事件が起きたことに興奮が隠しきれない様子が内外の視点で描かれていたり、雨目石家の家庭環境なども複数の視点から垣間見ることができます。通常の作品以上に、俯瞰して物語が見れるのも面白さの一つでしょう。

謎の提示などはミステリそのものなんですが、本作には探偵がいません。そのため、登場人物たちは各々が考える推理を披露していきます。

しかし、彼らは探偵ではありません。そのため、推理には穴があったり、考慮できていない点があったりします。そのため、他の人物たちからの指摘によって、推理は誤っていたと判定されてしまいます。

多重解決ものになっているのですが、推理の否定方法が素人による推理だからというのはかなり斬新だと思いました。

タイトルの意味を考えたくなる読後感

探偵がいないことで起こる多重解決もので、ミステリとしてかなり楽しく読めました。探偵がいないのにどうやるのか?と思っていたのですが、しっかりと謎解きされるのでご安心ください。

そして、読む前は「何でこんなに長いタイトルなんだろうな…」と思っていたのですが、読了後は見方が変わりました。各人の視点というのはその通りなんですが読み終わってみると、事件との関連や作品のラストに余韻があるように設計されていると感じました。

ちなみに、私雨というのはこんな意味だそうです。

ある限られた地域だけに降るにわか雨。 特に、下は晴れているのに山の上だけに降る雨。

作中では、私雨さんが過去に所有していた館として描かれていますが、この点も考えてつけられたタイトルなんだろうなと思わざるを得ない印象を受けました。

著者の渡辺さんは「ミステリの箸休めとして」とほんタメの動画にておっしゃっていましたが、全然そんなことないです。ミステリとしても、人間ドラマとしても楽しめる素敵な一冊でした。