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【ネタバレ考察】道尾秀介『N』の各話解説と読む順番による変化

道尾秀介さんの『N』は、章を読む順番によって話が変わってくるという、これまでにはなかった発想の小説です。

全六章。読む順番で、世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語。すべての始まりは何だったのか。結末はいったいどこにあるのか。

全部で6章あるので、読み方は720通り。様々な読み方ができますね。ネタバレなしの感想は下記でまとめています。

N-道尾秀介【感想】読み方は720通り!順番によって意味が変わる小説とおすすめの読む順番(道尾秀介『N』)

本記事では、時系列や各話の解説と、読む順番が変わるとどのような捉え方になるのかを考察してみます。時系列と一緒に話を整理するので内容にはネタバレが含まれます。

ここからは、未読の人は絶対に読まないでください!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

各話を時系列で並べてみた

まず、6章の物語を時系列順にしてみます。順番としては下記の通りになるでしょう。

■時系列

「飛べない雄蜂の嘘」

→「名のない毒液と花」(冒頭とラストは最後の2章と同じ時期)

→「消えない硝子の星」(ラストシーンは「笑わない少女の死」の後)

→「笑わない少女の死」

→「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」はほぼ同時期

まず、「飛べない雄蜂の嘘」ですが、これは錦茂が30代くらいの見た目をしている時の話。「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」でも、錦茂は登場しますが彼は少なくとも前期高齢者(65歳以上)には入るだろうと描写されています。

以上のことから、「飛べない雄蜂の嘘」は「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」よりも前の話とわかります。

次に「名のない毒液と花」ですが、この作品のラストは「眠らない刑事と犬」と繋がりがあります。そのため、メインで描かれている13年前は「飛べない雄蜂の嘘」よりは後の話ということになるでしょう。

また「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」とはほぼ同時期だとわかります。錦茂と普哉がヨウムを見つけるシーンが描かれているからです。

なお、「落ちない魔球と鳥」にて、錦茂が天使の梯子を見て感動しているシーンが描かれています。これは多分ですが、「眠らない刑事と犬」で啓介が見たのも天使の梯子だったのではないでしょうか。

また、「消えない硝子の星」の最後にカズマも天使の梯子を見ています。なので「消えない硝子の星」はラストシーン(オリアナと別れて半年後)は「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」と同時期でしょう。

「笑わない少女の死」については、新間先生と思われる男性がダブリンを訪れたのは肌寒い季節とあります。ここからダブリンに行ったのは春もしくは秋と考えるのが妥当でしょう。

そして、新間先生が帰国した5カ月後に秋雨が降っていたという描写があります。となると、新間先生がダブリンを訪れたのは春先と考えられます。

「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」はシルバーウィークの話なので、「笑わない少女の死」が春だと考えると、時系列としては「落ちない魔球と鳥」と「眠らない刑事と犬」よりも前と考えられます。

起こったことを時系列で整理する

少しややこしくなってしまったので、起きたことを時系列で整理しましょう。

・チエさんが小学生の時。ケガをしているチエさんを錦茂が助ける。「飛べない雄蜂の嘘」

 

↓(10年後くらい?)

 

・チエさんが田坂を殺害し、錦茂と出会う。「飛べない雄蜂の嘘」

・錦茂がボートに乗って行方不明になる。「飛べない雄蜂の嘘」

・チエさんが天使の梯子を見る。「飛べない雄蜂の嘘」

 

↓(10年後くらい?)

 

・吉岡精一と江添正見がペット探偵を開始。「名のない毒液と花」

・精一と江添が依頼人の犬を預かることになる。「名のない毒液と花」

・飯沼知真が母を殺した不良に仕返しを試みる。「名のない毒液と花」

・精一が事故死。一緒にいた犬も後遺症が残る。「名のない毒液と花」

・江添が犬を吉岡精一と名付ける。「眠らない刑事と犬」(で明らかになる)

 

↓(12.5年後くらい?)

 

・ダブリンのホスピスで働いている飯沼知真がオリアナと出会う。「消えない硝子の星」

・ホリーが亡くなる。オリアナはステラと暮らすことになる。「消えない硝子の星」

・オリアナはホリーの生まれ変わりである蝶を箱で大事に飼う。「消えない硝子の星」

 

↓(1ヶ月後くらい?)

 

・新間がダブリンを訪れてオリアナと出会う。「笑わない少女の死」

・新間がオリアナの蝶を逃がしてしまう。「笑わない少女の死」

・オリアナが蝶を探している最中に事故死。「笑わない少女の死」

 

↓(5ヶ月後)

 

・街で50年ぶりの殺人事件が起こる。「眠らない刑事と犬」

・吉岡精一(犬)が行方不明の犬を見つける。「眠らない刑事と犬」

・小野田啓介が窓から天使の梯子を見る。「眠らない刑事と犬」

・飯沼知真が日本に帰国中の飛行機から天使の梯子を見る。「消えない硝子の星」

・錦茂が天使の梯子を見る。「落ちない魔球と鳥」

・新間がオリアナの事故死を知る。「笑わない少女の死」

主要なところを抑えるとこんな感じでしょうか。大体の時系列はこの通りだと思います。そのため、時系列順で読むのであれば、下記が良いと思います。

■時系列順の読み方

「飛べない雄蜂の嘘」

「名のない毒液と花」

「消えない硝子の星」

「笑わない少女の死」

「落ちない魔球と鳥」

「眠らない刑事と犬」

これはあくまでも時系列を整理した時の話です。次に、それぞれの作品が読む順番によってどのように変化していたのかを考えてみます。

読む順番による違いを考えてみた

各章が他の章を読んだ後に読むとどのように変化するのかを考えてみます。読んだ後にどのようになるのかをまとめていますが、あまり関連がないものもあるので、そのあたりはサラッと書いてます。

名のない毒液と花

本作はわりと謎が多めの作品だと思います。最後に死んだのは精一だったのか犬だったのか? また、なぜ吉岡利香は精一と一緒に暮らしていないのか。これらが読む順番によって、見え方が変わってきます。

■「落ちない魔球と鳥」を読んだ後

大きな変化はなし。「落ちない魔球と鳥」で普哉が会った英語の先生は新間先生だったのかなという程度。

■「笑わない少女の死」を読んだ後

大きな変化はなし。数年前の新間先生が出てきているなという印象くらい。

■「飛べない雄蜂の嘘」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人は出てきていない。

■「消えない硝子の星」を読んだ後

カズマへの印象が変わる。彼の学生時代の様子が具体的にわかる。

■「眠らない刑事と犬」を読んだ後

死んだのが精一だと明確にわかる。江添は犬に吉岡精一と名付けているので、最後のシーンで吉岡精一として描写されているのは犬であることがわかる。「眠らない刑事と犬」を読んでいない場合は、この話のオチがわからない(むしろ精一が生きている)と感じるようになっています。

落ちない魔球と鳥

謎という謎はないかもしれません。強いて言うなら、なぜニシキモさんは、雲間から差し込む光の花に感動していたのか?ということでしょうか。

■「名のない毒液と花」を読んだ後

大きな変化はなし。定年退職した新間先生が出てきているなという程度。

■「笑わない少女の死」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。(一応、新間先生が出ているが薄いので割愛)

■「飛べない雄蜂の嘘」を読んだ後

ニシキモさんが感動していた理由が明確にわかる。天使の梯子を見るという夢が叶った瞬間ということがわかる。

■「消えない硝子の星」を読んだ後

大きな変化はなし。カズマが飛行機から見た光と、最後の光は同じかな?と疑問を持つ程度。

■「眠らない刑事と犬」を読んだ後

江添にヨウム探しを依頼していたのが誰かとその理由がわかる。また、ヨウムを見つけてしまった老人と高校生が、それぞれニシキモさんと普哉だったとわかる。

笑わない少女の死

この話は、なぜ少女が死んでしまったのかが謎のまま終わっています。これは「消えない硝子の星」を読むことでスッキリ解決するのです。

なお「消えない硝子の星」以外とは多少のリンクがある程度で、大きな繋がりあまりないかなと思います。

■「名のない毒液と花」を読んだ後

大きな変化はなし。主人公は新間先生かな?という程度。

■「落ちない魔球と鳥」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「飛べない雄蜂の嘘」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「消えない硝子の星」を読んだ後

少女が死んだ理由が明確にわかる。少女の母親は「I saw a horrible.(私は恐ろしいものを見た)」ではなく、「I saw a Holly blue.(私はホーリーブルーを見た)」と言っていました。ホーリーブルーとはルリシジミという蝶のこと。

少女が持っていた箱の中にはルリシジミがいました。しかし、主人公の男性(新間)がそれを逃がしてしまった。少女は探すために外に出て、事故で死んでしまった。つまり、男性は少女の死の原因を作ってしまった「自分が犯人」と考えているのでした。

■「眠らない刑事と犬」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

飛べない雄蜂の嘘

この話も大きな謎は残っていないでしょう。錦茂がどうなったのかが気になるくらいかもしれませんが、これは他作品では重要な伏線になっています。

■「名のない毒液と花」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「落ちない魔球と鳥」を読んだ後

「落ちない魔球と鳥」で謎だった、雲間から差し込む光の花にニシキモさんが感動していた理由がわかる。

■「笑わない少女の死」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「消えない硝子の星」を読んだ後

飯沼知真にルリシジミを教えてくれた人が、主人公の女性だとわかる。また、名前がチエさんだとわかる。

■「眠らない刑事と犬」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

消えない硝子の星

カズマの成長、オリアナの葛藤が解消されて心が和やかに終わる話。このように思えるでしょう。ただし、「笑わない少女の死」を先に読んでると、手放しでハッピーエンドには思えないようになっているんですよね…。

■「名のない毒液と花」を読んだ後

飯沼知真がダブリンで看護師になったことがわかる。成長を見れて嬉しい。

■「落ちない魔球と鳥」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「笑わない少女の死」を読んだ後

オリアナがこの話の後に死んでしまうことがわかった状態で読まないといけない。母の回復を健気に祈りながら、現実と向き合っている様子に胸が痛くなる。せっかく前を向いて生きていこうとしていたのに…。

多数の人が新間を嫌いになると思います。「笑わない少女の死」を先に読んでいるかどうかで、ハッピーエンドかバッドエンドかがわかれるのではないでしょうか。

■「飛べない雄蜂の嘘」を読んだ後

大きな変化はなし。カズマにルリシジミのことを教えてくれたのが、「飛べない雄蜂の嘘」の主人公の女性ということがわかる程度。

■「眠らない刑事と犬」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

眠らない刑事と犬

50年ぶりに起きた殺人事件の捜査を主軸に進む物語。この章は単体でもシンプルで面白い。ただ、他作品の伏線を回収する重要な役割を担っています。

■「名のない毒液と花」を読んだ後

「名のない毒液と花」で死んだのが精一だと明確にわかる。後遺症が残るケガをしたのは犬の方。そして、江添は犬に「吉岡精一」と名付け、罪滅ぼしとして利香へ入金していたとわかる。

■「落ちない魔球と鳥」を読んだ後

大きな変化はないが作品間リンクが面白い。ニシキモさんと普哉が出ているなと思うのと、千奈海がヨウム探しを依頼していたのは江添だったとわかる。

また、最後に啓介が見たものは「落ちない魔球と鳥」で、この3人が見ていたものと同じかなという想像を搔き立てられる。

■「笑わない少女の死」を読んだ後

大きな変化はなし。特に繋がりのある人物が出てこない。

■「飛べない雄蜂の嘘」を読んだ後

大きな変化はなし。最後に啓介が見たのは天使の梯子だったのかな?という想像を掻き立てられる。

■「消えない硝子の星」を読んだ後

大きな変化はなし。カズマが最後に見た天使の梯子は、啓介が最後に見たものと同じだったのかな?という想像を搔き立てられる。

読む順番のベストはあるのか?

最後に、どのように読むのがベストなのかを考えてみたいのですが、結論わかりません!

正直、こればかりはその人の好みによるのかなと考えています。なので、自由に気が向くままに読むで問題ないと思います。(この記事を読んでいる人は既読のはずなのであまりこの議論にも意味がないですが)。

ちなみに、私の思うベストの読み方はこちらです。

「名のない毒液と花」

「飛べない雄蜂の嘘」

「落ちない魔球と鳥」

「笑わない少女の死」

「消えない硝子の星」

「眠らない刑事と犬」

最初に「名のない毒液と花」を読むことで精一に関しての謎を解消させないようにします。

その後、ニシキモさんの過去の話である「飛べない雄蜂の嘘」を読んで、そのまま「落ちない魔球と鳥」に続きます。ニシキモさんが感動するまでの流れがスムーズに描かれるので、キレイな流れになるかと思いました。

続いて「笑わない少女の死」を読んで、その後に「消えない硝子の星」。「笑わない少女の死」は一読でオチがわからない方が面白いと思いますが、放置すると忘れてしまうので、直後に回収できる並びが良いです。

そして、「眠らない刑事と犬」で締めます。最初に読んだ話のオチがわかるのと、これまで象徴的に描かれていた天使の梯子がダークに感じる。後味が少し悪くなりますが、読後感でいったら余韻の残る形になるのではないでしょうか。

以上で今回の記事は締めたいと思います。みなさんはどの順番が良いと思いますか?