『火のない所に煙は』で本屋大賞にノミネートされた芦沢央さん。
『悪いものが来ませんように』や『許されようとは思いません』など少しドロドロとした作風のイメージでしたが、中にはスッキリする作品も。
今回は割と爽快感のある作品を取り上げてみます。
芦沢央『バック・ステージ』です。
パワハラ上司の不正の証拠を掴みたい先輩社員康子とその片棒を担ぐハメになってしまった新入社員の松尾。2人は紆余曲折の末、自社がプロモーションする開演直前の舞台に辿り着く。劇場周辺では息子の嘘に悩むシングルマザーや役者に届いた脅迫状など、4つの事件が起きていた。それぞれ全く無関係のはずなのに、康子たちの行動で少しずつ繋がって…!?バラバラのピースが予測不能のラストに導く、驚嘆の痛快ミステリ。(「BOOKデータベース」より)
パワハラ上司の悪事を暴く
物語は序幕という章からスタートします。澤口という社員は、同期の玉ノ井に厳しく叱責するパワハラ上司。そんな彼は、取引先からキックバックを受けているという情報が。
そんな悪事を暴くために、同じ会社に勤める康子と松尾は捜査を始めます。証拠を掴むために動きますが、そこでは様々なトラブルが…。
この二人を主人公として描いているのが、序幕/幕間/終幕/カーテン・コールの4つの章。澤口を追及できるのか?が焦点になっています。
短編で完結するけど繋がる!
先ほどの章とは独立して、1~4章で短編が描かれています。
- 内気な息子を心配する母
- 同級生と恋に落ちた男子大学生
- 舞台に出演するなと脅された俳優
- 大女優に長年連れ添ったマネージャー
彼らはそれぞれに問題を抱えている。そこには何かしら序幕などで登場する舞台が関わっているんです。個人的には2章と3章の物語が好みでしたね。
第二章 始まるまで、あと五分
中学時代のマドンナ・伊藤と大学で再会した奥田。仲良くなって告白するも結果は玉砕してしまう。彼女が行きたがっていた舞台のチケットを取ったは良いが、やはり彼女は来る様子がない…。
大学生の恋愛を描いた物語。奥田が待っている場所が先ほどの演劇でした。ただの淡い恋愛模様かと思って読み進めていましたが、最後に騙されました…。
キチンと伏線が張られていて、一本にまとまります。短編としての完成度がとても高かったです。
第三章 舞台裏の覚悟
演劇でキーマンの役を与えられた、売れたい俳優・川合春真。しかし、彼は一夜の過ちをネタに脅されていました。自分が重要な役どころのシーンに出演するなと言うのです。彼は葛藤しつつも、犯人を捜し始めます。
こちらも最後に驚きがキチンと用意されてる作品。葛藤の描かれ方もそうですが、すべてが伏線になっていて、素晴らしいなと感じました。
まとめ
本作は最後には、序幕の二人の物語が完結します。ここにもどんでん返しを期待していましたが、そこまで大きなネタはありませんでした…。しかし、物語としてはきちんと完結します!
各物語が結びつくので読んでいて面白いです。伊坂幸太郎さんの『ラッシュライフ』や恩田陸さんの『ドミノ』に似ている感じですね。
短編としての完成度も高い物語ので、気になる方は是非読んでみてください!