記事内ではアフィリエイトURLを使用しています

【感想】地方都市で起こる日常の謎と後味の悪いラスト(米澤穂信『Iの悲劇』)

米澤穂信『Iの悲劇』の感想をまとめました。

人が誰もいなくなってしまった村。そこに人を戻すプロジェクトを任された地方公務員の奮闘を描いた作品です。

一度死んだ村に、人を呼び戻す。それが「甦り課」の使命だ。人当たりがよく、さばけた新人、観山遊香。出世が望み。公務員らしい公務員、万願寺邦和。とにかく定時に退社。やる気の薄い課長、西野秀嗣。日々舞い込んでくる移住者たちのトラブルを、最終的に解決するのはいつも―。徐々に明らかになる、限界集落の「現実」!そして静かに待ち受ける「衝撃」。これこそ、本当に読みたかった連作短篇集だ。(「BOOKデータベースより」)

米澤さんらしいダークな日常の謎が盛りだくさんの本作。『本と鍵の季節』『さよなら妖精』のようなビターさがたっぷりの物語でした。タイトルに“悲劇”という文字が入っていますが、果たしてどのような結末を迎えるのか?

村を復活させるプロジェクト

出世を望んで仕事をしていたはずの万願寺。しかし、彼は「6年前に無人になった蓑石地区を復活させよう!」という“左遷”に近いプロジェクトに携わることになってしまった。

部署の名前は「蘇り課」。課長の西野と2年目の新人職員・観山、万願寺の3人の部署だった。蓑石への移住希望者を受け入れ、そこでの生活をサポートするのが彼らの仕事。

しかし、移住者の周りにはトラブルが尽きず…。彼らは再び村を繁栄させることはできるのか。

日常の謎が息苦しい

本作は7つの章から成っている連作短編集。その中で提示される小さな謎(日常の謎)を明らかにしていくという展開です。

収録されている日常の謎には以下のものがあります。

  • お隣さんの家が火事になった原因は何か?
  • 庭で育てていた鯉が日に日に減っていく謎
  • 近所の家に出かけてから行方がわからなくなった子どもはどこにいるのか?

ちょっとしたトリックがあったり、地方の村という場所ならではの回答があったりと、とても楽しめました。1章ごとの読み切りになっているので、読み進めやすいです。

また、それぞれの答えにも納得感があって楽しめました。日常に潜むちょっとした不思議を解き明かす過程は、さすが米澤さんでした。そして、この日常の謎がとても苦いのです。真相がわかって明るい気分になれることはありません。

人それぞれの思惑が交錯して、事件が起きていた。謎が解けたスッキリ感と重苦しい空気はたまりません。

最後に明らかになる真実

本作は蓑石を活性化させるプロジェクトが描かれている連作短編集です。最後の最後には物語を通じてのオチがつくのですが、これもまた後味が…。

プロジェクトの本当の狙い。そして、その裏では何が起こっていたのか。各短編に仕掛けられていた伏線が明らかになります。地方都市だからこその思惑。ここまでの話を読んでいるので真相には息が苦しくなりました。いつもの米澤節が全開の作品でした。