記事内ではアフィリエイトURLを使用しています

【感想】虚偽記憶が植え付けられた理由は?新しい恋愛ミステリ(辻堂ゆめ『あなたのいない記憶』)

「このミス」大賞出身作家の辻堂ゆめさん。

受賞作の『いなくなった私へ』ではSF設定をうまく用いたどんでん返しがありました。

【感想】驚愕のラスト!自分が認識されない理由とは?(辻堂ゆめ『いなくなった私へ』)

2作目の『コーイチは、高く飛んだ』では体操を舞台にした感動ミステリを展開してくれました。

【感想】最後のネタバラシは一級品!切なさでいっぱいになる読後感(辻堂ゆめ『コーイチは、高く飛んだ』)

そして今回紹介する3作目。記憶にまつわる謎を題材にした小説でした。

辻堂ゆめ『あなたのいない記憶』です。

約十年ぶりに再会した優希と淳之介。旧交を温める二人の会話は、二人の憧れの人物「タケシ」の話になった途端、大きく食い違い始める。

タケシをバレーボール選手と信じる淳之介と、絵本の登場人物だという優希。

記憶に自信が持てなくなり、戸惑う二人は心理学者の晴川を訪ねるが、どちらの記憶も「虚偽記憶」―他人の“明確な意図で”書き換えられた嘘の記憶だと告げられる。

記憶をめぐる、恋愛ミステリー。(「BOOK」データベースより)

3作それぞれでテーマの異なる作品を世に送り出している辻堂さん。

これほどまでに違ったテイストを書けるのは純粋にすごいなと思いました。

『あなたのいない記憶』では、人の記憶の曖昧さを軸としたミステリです!

食い違う記憶の謎

大学に入学したばかりの優希。

新歓の最中に、同郷で2つ上の学年の淳之介と偶然出会います。

思い出話に花を咲かせる二人でしたが、記憶に関しておかしな点があることに気付きます。

それは「タケシ」という人物についてでした。

優希の中で「タケシ」と言えば、絵本の主人公。

チェスの世界大会で優勝するほどの実力者として描かれています。

しかし、淳之介にとってはバレーボールの日本代表、小田健志のこと。

しかも、優希は淳之介に「二人してタケシさんの取り合いをしてただろ」と言われてしまいます。

「タケシ」という人物には心当たりのない優希。

二人は記憶の食い違いの謎を解明するために行動するのでした。

京香という女性も加わって物語は進む

本作では、冒頭から「京香の記憶」として語られる箇所があります。

どうやら「タケシ」と幼なじみらしい京香。

果たして、この「タケシ」は優希と淳之介が追っている「タケシ」と同一人物なのか?

物語にどのようにリンクしてくるのか?

これらが最初の頃は謎にもなっているでしょう。

そして、明かされる「タケシ」という人物について。

優希と淳之介への虚偽記憶は誰が何のために入れ込んだのか?

最後の最後には悲しい事実と一緒に謎は解明されるのでした。

心理学がテーマにもなっている

記憶というテーマなので、心理学に関する話題が出てくるシーンがあります。

虚偽の記憶は簡単に植え付けられるという部分もあり、なかなか面白いジャンルでした。

ラストにはしっかり驚きの展開を用意してくれてますが、若干ご都合主義と言えなくもない感じ。

ただ、オチはちゃんとしているので、作り話だし多少の無理はあっても良いかなと思います。

また、過去作では探偵役と言える人が出てきませんでした。

しかし、今作では晴川あかりという心理学の教授がその役を担当しています。

心理学というミステリに色々と活用できそうな分野でもあるので、今後シリーズとして登場してくるかもしれませんね。

異なるジャンルのミステリで驚きのラストを用意してくれる辻堂ゆめさん。

作風も結構好きな作家さんなので、今後も刊行作品は読んでいこうと思います!