史上最年少・23歳7ヶ月で江戸川乱歩賞を受賞してデビューした作家・荒木あかねさん。
受賞作の『此の世の果ての殺人』は、小惑星によって滅亡目前の地球が舞台のミステリでした。特殊設定ミステリの中でも斬新な設定で面白い作品です。
そんな、荒木あかねさんの2作品目『ちぎれた鎖と光の切れ端』を紹介します。
島原湾に浮かぶ孤島、徒島(あだしま)にある海上コテージに集まった8人の男女。その一人、樋藤清嗣(ひとうきよつぐ)は自分以外の客を全員殺すつもりでいた。先輩の無念を晴らすため–。しかし、滞在初日の夜、参加者の一人が舌を切り取られた死体となって発見された。樋藤が衝撃を受けていると、たてつづけに第二第三の殺人が起きてしまう。しかも、殺されるのは決まって、「前の殺人の第一発見者」で「舌を切り取られ」ていた。そして、この惨劇は「もう一つの事件」の序章に過ぎなかった――。
二部構成の物語。第一部ではクローズドサークルを舞台とした本格ミステリです。そして、第二部では、第一部を伏線としたミステリが幕を開けます。
400ページを超える重厚な物語なのに、まったく中だるみしない。読む手が止まらない素晴らしいミステリでした。ネタバレなしで感想を紹介します。
自分ではない誰かが殺人をしている…
島原湾に浮かぶ孤島・徒島(あだしま)の海上コテージにやってきた8人の男女。そのうちの一人、樋藤は復讐のために、7人全員を殺そうとしていました。
そのために、計画を練って、自らも死ぬ覚悟を持ってこの孤島にやってきました。そして、初日の夜。殺人事件が起こります。しかし、樋藤はその状況に驚いていました。なぜなら、彼が殺したわけではないからです。
更に、死体からは舌が切り取られていたのでした。これは、樋藤が復讐を誓うきっかけになった出来事の見立てにもなっているのです。
自分以外の誰かが殺人をしている。しかも、なぜか自分と似たような恨みを持っているようでもある。一体、誰が、何のために殺人をしているのか?
そして、これだけでは終わりません。翌日、第二の殺人が発生し、その次の日には、第三の殺人が起こっていきます。しかも、これらの殺人は、前の事件の第一発見者が被害者になっていたのです。
ただでさえ謎の多い事件。犯人は何を考えているのか?
樋藤は、自分ではない殺人犯を探そうとするのでした。
第二部からが真骨頂
ここまでの説明はすべて第一部です。まだ物語としては、半分程度しか進んでいません。そして、第二部からが本作の真骨頂でもあります。
第一部だけでも、ここまでお話した事件の謎解きはされます。しかし、ある程度の謎は残った状態で第二部へと移っていきます。
謎は解消されないまま、まったく違う事件が幕を開けるのでした。ただ、実はリンクしている部分もあります。
第一部で残った謎と、第二部で出てきた新しい謎。それぞれが交わりあった先に、衝撃の真実が目の前に浮かんできます。
本格ミステリとしてのレベルが高い第一部だけでも面白いのに、それを伏線とした第二部。ここまで話を広げることができるのかと、感服してしまいました。衝撃がすごかったです…。
推理のロジック・伏線回収・人間ドラマすべて完璧
ここまでで紹介をしてきた通り、本作は二部どちらも重厚なミステリとなっています。第一部だけでも十分に素晴らしいミステリなんですが、そこを活かした第二部も圧巻です。二作品分のミステリを楽しめたような感覚になります。
それぞれ、謎解きのロジックがしっかりしているので納得感があり「やられた…」という感じも楽しめます。第一部を伏線にするという、壮大な伏線回収もあり、ミステリ好きなら絶対に楽しめる一冊です。
また、本作の魅力はミステリだけではありません。人間ドラマとしても完成度の高い作品です。
復讐を題材にしているので、人間関係を描いているということは想像できると思います。ただ、復讐に焦点を当てたわけではない、素敵な人間ドラマがあって、胸を打たれてしまいました。
タイトル回収も含めて、素敵な物語になっていました。最後まで中だるみをするところがなく、あっという間に読めてしまう。そして満足度が高くなること間違いなし。
少しでも興味を持った人は絶対に読んでほしいです!