たかひでの本棚
島本理生『ファーストラヴ』を紹介します。島本さんには、純文学よりな恋愛小説を書く作家さんいうイメージを持っていましたが、どちらかというとミステリ寄り。
父親を殺した容疑で逮捕された女子大生。その背景には何があったのか？そもそも彼女は本当に殺したのか？という話です。
父親殺害の容疑で逮捕された女子大生・環菜。アナウンサー志望という経歴も相まって、事件は大きな話題となるが、動機は不明であった。臨床心理士の由紀は、ノンフィクション執筆のため環菜や、その周囲の人々へ取材をする。そのうちに明らかになってきた少女の過去とは。そして裁判は意外な結末を迎える。第159回直木賞受賞作。（「BOOKデータベース」より）
人間関係に重きを置いたミステリという印象。トリックや伏線回収がすごいという作品とは違った楽しさを味わえました。父親殺しの背景にあった、ある秘密が少しずつ明らかにされていき、最後には意外な結末を迎える。
「動機を見つけてください」という殺人
アナウンサー志望の女子大生・聖山環菜。彼女は父親を殺害した罪で逮捕されてしまう。動機は「父がアナウンサーになることを反対したから」と思われていました。
しかし、環菜は「動機はあなたたちが見つけてください」と警察に言ったのでした。というのも、彼女自身、なぜ自分がこんなことをしたのかわかっていないらしい。
臨床心理士の真壁由紀は、環菜との面会を通じて、彼女は本当のことを話していないと思うようになります。そして、事件を調べるにつれて、環菜の家庭環境や交友関係にはある秘密があったことがわかってくるのでした。
食い違う出来事の描写
本作で重要なのが、環菜を取り巻く人間関係です。殺してしまった父をどのように思っていたのか。母親との関係は？
これらが語られていくのですが、決して良い親とは言えない人たちで、少しモヤモヤ。しかも、同じ出来事を話しているはずなのに、母と環菜では全く違うように聞こえる。元カレや父親の周囲の人物についても、あまり気持ち良いものではありませんでした。
このようにして、徐々に環菜が事件前の状態になっていたのかわかってきます。
待っているのは意外な結末
ミステリ要素も大きい本作。最後には意外な展開が待ち構えていました。最も大きな謎「環菜が父を殺したのか？」
何が起きていたのかがわかれば何てことないのですが、そこに行き着くまでの過程が素晴らしかった。最初は不可解だった事件が、すべてがそうなるべくして起きたものだったのです。何が環菜を追い込んでしまったのか。この結末はぜひ読んで知っていただきたいですね。
無駄な描写はないというくらいに、すべてが繋がります。正直、アナウンサー志望だったとかを忘れていたのですが、この人物設計も上手でした。事件には重要なことでもあったのですね…。
王道なミステリではない小説を読みたい方にはオススメの一冊ですよ！
