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【感想】死んだ人と会えるとしたら?人気作品の続編(辻村深月『ツナグ 想い人の心得』)

ツナグ-想い人の心得

辻村深月『ツナグ 想い人の心得』を紹介します。映画化もされている人気小説『ツナグ』の9年ぶりの続編。ツナグとして成長した歩美の姿も見れて嬉しくなりました。

【感想】ただの感動小説じゃない!人間関係を丁寧に描いた名作(辻村深月『ツナグ』)

死んでしまった人と一晩だけ会わせてくれる存在・ツナグ。彼らのもとを訪れる人はどんな悩みや不安、葛藤を抱えているのか。5つの物語を通じて人の温かみに触れることができます。

顔も知らない父親に、事故死した幼い娘に、片思いしていたあの人に、もしも会えるなら。一生に一度だけの死者との再会を叶える使者「ツナグ」。長年に亘って務めを果たした最愛の祖母から歩美は使者としての役目を引き継いだ。7年経ち、会社員として働きながら依頼を受ける彼の元に、亡き人との面会を望む人々が訪れる。依頼者たちは、誰にも言えぬ想いを胸に秘めていて―。(「BOOKデータベース」より)

今回は5つの話をネタバレなしで簡単に紹介していきます。

プロポーズの心得

俳優として活躍している紙谷ゆずる。舞台をきっかけに美砂という女性と知り合います。交友を深めていく二人でしたが、彼女はゆずるとの交際を前向きに考えてくれません。「自分は幸せになってはいけない」という言葉を残して。

そんなある日、ゆずるは美砂が変わってしまったのは、親友の事故がきっかけだということを知ります。使者と再会したら何かが変わるかもしれない。そう考えた彼は好きな女性のために、ツナグと会うのでした。

前半の流れからは想像しない展開になりますが、最後にはキレイな形でオチがつく。(タイトルの意味とずれている気がしましたが、これはこれで良いのかも)

また、美砂は前作を読んでいる人にはお馴染みのキャラクターですね。前作から7年が経っているので、既に社会人の年齢。キャラクターのその後を知れると嬉しい気分になります笑。

歴史研究の心得

元教員の鮫川からの依頼は「歴史上の偉人に会いたい」というもの。地元の英雄である上川岳満と会いたいというのです。

彼の研究をしていたという鮫川は、その中で見つけた2つの謎を直接聞きだしたいというのでした。これまでとは毛色の異なる依頼に面食らう歩美でしたが、鮫川の熱量に押され依頼を受けることになります。

読者からしてもこれまでとは違う種類の死者との再会で、ワクワクしながら読み進められました。人生に何を賭けているのか。人生を謳歌するって素敵なことなんだなと感じられる物語でした。

当たり前と言えば当たり前なんですが、歴史上の人物に現代語は通じないという部分まで忠実に考えた上で作品にしています。ここまで徹底されるのかと改めて感服しました。(ちなみに上川岳満は架空の人物のようです)

母の心得

歩美のもとに2つの依頼がやってきました。それはどちらも亡くなった娘に会いたいというものでした。

1組目の依頼は重田夫婦。5年前に堤防釣りの最中に亡くなった、6歳の娘との再会を希望していました。少し目を離した隙に死んでしまった娘。自分たちの不注意のせいで亡くした命に、今でも後悔しか残っていない様子でした。そんな2人がなぜ娘との再会をしようと思ったのか…?

2組目は20年以上前に亡くなった娘と会いたいという70歳を超える瑛子。26歳の若さで亡くなった娘に謝りたいことがあるとして、依頼にやってきたのでした。

どちらも娘に対して伝えたいメッセージがあり心が揺さぶられました。普通に泣きそうになりました。(今この感想を書いている時も思い出して若干泣きそうになってます)母親としての立場が事細かに丁寧に描かれており、人間の美しさを実感できる物語です。

一人娘の心得

歩美の会社の取引先「鶏野工房」は家族経営の小さなおもちゃ制作工房。そこの大将がある日、突然亡くなってしまいます。

生前、仕事以外でも面倒を見てくれていただけに、ショックを隠し切れない歩美。また、取引先という関係以上に距離が近くなっていた歩美は、女将さんや大将の一人娘・奈緒のことを心配していました。

そんなある日、奈緒が大将に工房を継ぎたいと言っていたことを知ります。そして、大将からこの件について何か聞いていないかと質問されます。亡くなる数日後に大将は奈緒に何かを伝えようとしていたようなのです。歩美は自分の力を使って、奈緒と大将を引き合わせられないか葛藤します。

依頼人ではない奈緒に対して、歩美はツナグの力を使うべきなのか?奈緒が主役でもあり、歩美も主役になっている物語。最終的にどのような決断を下すのかドキドキしながら読み進めました。オチはこれ以上ない素晴らしいものだったとだけ言っておきます。

想い人の心得

歩美のもとに85歳の蜂谷からの電話がかかってくる。彼は40代の頃から依頼を続けているのだ。会いたい相手は袖岡絢子。彼女は16歳の時に亡くなってしまった気の強い女性。恋心を抱きながらも、身分の違いをわきまえていた蜂谷は、彼女を慕うことしかできませんでした。

絢子は、蜂谷からの依頼を毎回断り続けていました。彼女からすると会う理由がないからです。しかし、蜂谷には彼女に会いたい理由があったのでした。最初は5年に1度だったが、70歳を超えてからは3年に1度のペースになっているという。チャンスが少ないことを理解している蜂谷は、今年はあることも一緒に伝えてほしいと歩美にお願いするのでした。

絢子と蜂谷はようやく再開できるのですが、そこに隠されていた想いが美しすぎました。こんなにもキレイに人を想うということがあるのかと感じさせられます。蜂谷が何をしたかったのか。文章で読んでも素敵なのですが、これは映像化したら更に素晴らしいものになると感じました…。