死んでしまった人に、一度だけ会うことが許される。こんな機会があったら、あなたは誰に会いたいと思いますか?
今回はそんな死生観を扱った小説を紹介します。辻村深月『ツナグ』です。
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員…ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。心の隅々に染み入る感動の連作長編小説。(「BOOKデータベース」より)
実はこの作品は大学生の時に読んでいて、その時はそこまで響きませんでした。しかし、それから数年。少しは大人になった今、読み返すと、刺さるポイントが多かったです。
人間ドラマを描いた名作
本作は5つの短編から成る長編小説です。死者に会うために使者(ツナグ)のもとを訪れた人たちの心理を丁寧に描いています。
会いたい理由は人それぞれ。使者に依頼をすると、人生に一度だけ、一晩だけ死んだ人に会うことができます。
- 不慮の死を遂げたアイドルに会いたい。
- 探し物を見つけるために母に会いたい。
- 事故死した親友に会いたい。
- 音信不通になってしまった婚約者に会いたい。
尚、死者も会えるのは一度だけ。そのため、死者の側には会うかどうかを選ぶ権利があるんです。そのため、生きている人だけではなく、死んでしまった人にも会いたい理由があります。
例えば1番最初の物語。アイドルがなぜただのファンと会おうと思ったのか?
以前読んだ時はよくわかりませんでしたが、人間関係をより俯瞰できるようになった今は理解できます。笑
お涙頂戴ものではない
辻村さんの描写が素晴らしいので、そのほかの登場人物の気持ちも痛いほどわかります。よくあるお涙頂戴ものではなく、人と人の関係を丁寧に描いているので、心が苦しくもなるのです。
何でこんなにも人の気持ちを捉えるのが上手なのかなと思ってしまうほど。
例えば「待ち人の心得」。1番響いた物語です。依頼人の土屋は、7年前に行方不明になった婚約者・日向キラリに会いたいと言います。日向キラリという源氏名のような氏名。
そのため、土屋は友人たちから、彼女は詐欺や盗みなどのために近づいただけで、結婚が怖くなって失踪しただけだと言われていました。
生きていたとしたら騙されていたことになる可能性が高い。でも、死んでいることが喜ばしいわけがない。真実を知りたくない土屋。でも、使者への依頼が成立してしまうということは、婚約者が死んでしまったことが確定してしまう。
そんな彼の心理描写と婚約者の姿の描き方が素晴らしすぎました。
辻村作品ならではの伏線回収も!
最後の章は使者の視点で物語が進んでいきます。これまでの物語を、使者はどのような気持ちでいたのか?
依頼者とも、読者とも異なる視点が明かされるので、ミステリとしての楽しみ方もできますよ。
特に、使者にまつわる謎が提示されるのですが、ラストの伏線回収は相変わらずお見事でした。心地よいだけではなく、ミステリの楽しみも得られる素晴らしい作品です!
本を読んで感動したい。人の温かみに触れてみたい。そんな人にはぜひ読んで欲しいです!