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【感想】あなたの記憶は大丈夫?過去を巡る奇妙な物語集(辻村深月『噛みあわない会話と、ある過去について』)

嚙み合わない会話と、ある過去について

今回は、辻村深月『噛みあわない会話と、ある過去について』を紹介します。

あなたの「過去」は、大丈夫? 美しい「思い出」として記憶された日々――。その裏側に触れたとき、見ていた世界は豹変する。無自覚な心の内をあぶりだす「鳥肌」必至の傑作短編集!

ブラックな4つの短編を収録している小説。どの作品も最後には後味の悪さが残ります。『かがみの孤城』『スロウハイツの神様』と同じ作者とは思えません…。

今回もネタバレなしでそれぞれの話を紹介していきます。

ナベちゃんのヨメ

大学のコーラス部時代の同期。男友達のナベちゃんが結婚することになった。しかし、そのナベちゃんの嫁がヤバいらしいという噂が立った。

女子の多い環境にいたナベちゃん。全員の女子から「男」として見られることはなく、あくまでも友達だった。そんな彼が結婚することになるが、その結婚相手はかなり変わった人物だった。

なぜナベちゃんはそんなヤバいやつと結婚するのか。どうして言いなりになっているのか。

好き放題に言い合う大学のメンバーたちだが、「私」はあることを考える。最後の「私」が思い至った考え方には、自分の言動を鑑みたくなりました。

パッとしない子

美術講師の美穂は教え子に大人気アイドル・高輪佑がいた。しかし、彼女が覚えているのは、運動会の門の制作で、独自性を発揮していたことだけ。彼はパッとしない子だった。

そんな高輪佑が、TV番組の収録で学校を訪れる。そこで美穂は久しぶりに再会をするのだが…。

パッとしない子と言われていた佑は、美穂と何を話すのか。本作はほとんどが二人の会話で成立しています。そこで繰り広げられることが予想してないものでした…。

何が本当なのか。自分は何かを勘違いしているのか。ちょっと怖い物語でした。

ママ・はは

「私」は友達の亜美の引っ越しを手伝っていた。そして、彼女の成人式の写真を見つける。そこには藤色の着物を着た亜美が写っていた。

しかし、彼女は当日はこんな着物は着ていないのだと言う。そこには、彼女と母親を巡る奇妙な物語がった。

これまでとは違ってどこか不思議な物語。そして、怖さを孕んだお話でした。『宮辻薬東宮』にも収録されていましたが、やっぱり面白い。個人的には最もおすすめの短編です。

早穂とゆかり

地元雑誌のライターをしている早穂は、教育者として有名になったゆかりに取材をすることになります。ゆかりは小学生時代は目立たない子だった。しかも、ちょっと変わった部分もあった。

そんな彼女が教育者として成功している姿を想像できない早穂でしたが…。

ちょっと2作目の『パッとしない子』に似ているなと感じます。オチがスッキリしないところも含めて、どうしても既視感を持ってしまいました…。

ただ、この後味の悪さを残す感じはさすがでした。