2021年本屋大賞ノミネート作品、凪良ゆう『滅びの前のシャングリラ』を紹介します。一ヶ月後に小惑星が衝突し、地球が滅亡してしまう世界。
滅びを前に人々はどのような生活をするのか。当たり前のとうに存在する毎日。そんな日々を振り返るきっかけになる一冊です。
「一ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる」学校でいじめを受ける友樹、人を殺したヤクザの信士、恋人から逃げ出した静香。そして―荒廃していく世界の中で、四人は生きる意味を、いまわのきわまでに見つけられるのか。圧巻のラストに息を呑む。滅び行く運命の中で、幸せについて問う傑作。(「BOOKデータベース」より)
昨年は『流浪の月』で本屋大賞を受賞した凪良ゆうさん。本屋大賞には2年連続のノミネートとなります。
4つの章にわけられ、家族や友人たちとの交流を描いた作品。4人は終末に向けてどのような余生を過ごそうとするのでしょうか。
1ヶ月後には滅亡する地球
1ヶ月後に小惑星が衝突し、地球が滅亡する。そんな発表がされてから、町は荒れ始めてしまいました。コンビニなどのお店を襲ったり、町で暴動を起こす人も。
しかし、そんな中でもこれまでと変わらない日々を過ごす人もいる。一人一人が残りの人生を精一杯生きていこうとします。
滅びを迎える前に彼らは何を思い、残りの人生をどのように過ごそうとするのか。SF感のある設定の中で、人々の心情や行動がとても丁寧に描かれていました。
伊坂幸太郎さんの『終末のフール』にも似た設定。こうした人類の終末を前にした作品は人生を振り返るきっかけになりますね。
閉塞感を抱えている4人の人々
物語は4つの章にわかれています。そして、それぞれの章で別々の主人公がいます。
学校でいじめを受けている高校生。人を殺したやくざ。恋人から逃げ出した女性。何かを得ても満足感を得られなくなってしまった女性。
滅亡が決まる前の平穏な世界では、彼らは人類が滅びても良いと思っていた人間たちでした。そんな4人は残りの人生で何を思うのか。
そして、やり残したことを果たすため、最期を迎えるまでをどのように謳歌するのか。
閉塞感を持っている4人の物語。しかし、実際に滅亡するとなると、行動にも変化が現れる。嫌な意味で変わるのではなく、必要なこととして訪れる変化で、素敵な印象を受けました。
終末感が美しい作品
4つの物語は独立したものではなく、長編形式でつながっています。人が変わっていく過程や人類が滅んでいく様子が、痛いほどわかりやすく表現されている本作。
彼らがどんな生活を送るのかが気になってしまい、あっという間に読めてしまいました。ページをめくるたびに新しい展開が待っているので、どんどん読み進められるはずです。
最後にはとてもキレイに話が締まります。冒頭で語られていたこととのリンクもあり、とても美しく、そして儚い物語に感じられました。爽快ではありませんでしたが、読後の余韻は素晴らしいものでした。