人間誰しも思い出の場所はあるのではないでしょうか?
自分が生まれた場所。恋人との記念日を過ごした場所。人生の転機になった場所。
今回は東京會舘が、思い出の場所になっている人たちの物語を紹介します。
辻村深月『東京會舘とわたし』です。
海外ヴァイオリニストのコンサート、灯火管制下の結婚式、未知のカクテルを編み出すバーテンダー…“會舘の人々”が織り成すドラマが、読者の心に灯をともす。大正十一年、丸の内に誕生した国際社交場・東京會舘。“建物の記憶”が今、甦る。激動の時代を生きた人々を描く。直木賞作家の傑作長編小説!(「BOOKデータベース」より)
全10章(+新章)で紡がれている本作。登場人物それぞれが、東京會舘に対して特別な思いを抱いていました。
フィクションのはずなのに「本当にこんな物語があったのではないか?」と感じざるを得ない作品です。
Contents
東京會舘の歴史を描く
大正時代の話から平成まで。東京會舘で起きた事件や出来事をまとめた本作。東京會舘に関する10個の物語が収録されています。
- 後の有名作家が売れない時代に、東京會舘にやってきた伝説的な音楽家の演奏を聴きにやってくる話
- 東京會舘で今なお伝説になっているお土産菓子ができるまでの話
- 東京會舘のクッキングスクールに通った夫婦の話
- 子どもの頃に東京會舘を訪れていた直木賞作家の話
どれもこれも、人の温かさを感じられる作品になっています。フィクションなんですが、一部事実もあるようで、本当に誰かが経験した話なのではないかと思ってしまいます。
物語を完成させるまでの取材量もすごかったんだろうなと感じました。(実際巻末の参考文献は多かったですね)
作品内でのリンクがすごい
本作は、小椋という小説家が東京會舘に関しての作品を描きたいというシーンから始まります。
大正に誕生してからこれまでの間に紡がれた、東京會舘の歴史をまとめようとするシーンから始まるのです。そして、この小説家が何者なのかは読み進めていくと明らかになります。
下巻でも全く同じような描写のシーンがあるのですが、その時、彼に抱く感情は冒頭とは違っているはずです。
他にも、前の話で登場した人物が別の物語でも語られていたり、その人物が携わったものが語り継がれていたりと、読んでいて飽きない作りになっています。
大きな驚きがあるわけではありませんが、こうした遊び心はさすが辻村深月でした。
心温まる辻村作品!
本作には、『かがみの孤城』や『スロウハイツの神様』ほどのどんでん返しはありません。
しかし、1つ1つの物語にその時代を生きた誰かが確実に存在してました。
個人的には直木賞作家の話(9章)はめちゃめちゃ面白かったですね。読んだ人には伝わると思いますが、あるセリフは最高過ぎました。
どれほどの歳月が経っても、東京會舘は誰かの人生の一部になっている。行ったことがないのですが、東京會舘に行ってみたいなと思う作品でした!