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囚人のジレンマはなぜ起こる?合理的な行動をとれない心理

人は時として、最も合理的な行動や決断をできないことがあります。

  • ダイエットをしたいのにお菓子を食べてしまった
  • 必要ではないのに、セール品でつい買ってしまった
  • やらなければならない仕事があるのについ先延ばしにしてしまった

このような経験はありませんか?

「やらない方が良い」と頭ではわかっているはずなのに、ついやってしまう。もしくは「やった方が良い」はずなのにやれない。なぜこのような不合理な行動をしてしまうのか。

何かしら心理が働いている間違いありません。この心理の根源を理解できれば、合理的な選択をしやすくなるのではないか。

『予想どおりに不合理』という本の内容も踏まえつつ、今回は「囚人のジレンマ」を例にとって、私たちが不合理な行動を取る心理を考えてみます。

囚人のジレンマ

皆さんは囚人のジレンマというゲーム理論のモデルを知っていますか?

ある事件の犯人として捕まった二人。彼らはお互いに意思疎通ができない状況で取り調べを受けることに。取り調べの中で二人は「自白する」「黙秘する」を選ぶことになりました。

そして、お互いがどちらを選んだかによって受ける刑が変わります。

  1. お互いに「自白する」を選択した場合:どちらも懲役5年
  2. お互いに「黙秘する」を選択した場合:どちらも懲役2年
  3. 片方が「自白する」を選択し、片方が「黙秘する」を選択した場合:自白した方は懲役1年、黙秘した方は懲役10年

上の図を見れば、どれを選択するのがお互いにとって最も合理的なのか一目瞭然でしょう。

お互いの利益を最大化させるためには、懲役が最も少なくて済む「2」を選ぶべきなのです。この状態を経済学では「パレート最適」と呼びます。しかし、我々の心理を考えると、この結果になることは少ないです。

「相手が裏切るかもしれない」「裏切られたら自分の懲役は長くなる」

こうした心理が働くことで、「黙秘する」よりも「自白する」の方が良いように感じてしまうからです。お互いが「自白する」を選ぶことで、結果は「1」の懲役5年に落ち着きます。

先ほどよりも長い懲役を合理的になっている。この矛盾が起こるので「ジレンマ」と呼ばれているのです。(尚、こうした状態を「ナッシュ均衡」と呼びます)

なぜジレンマが生じるのか?

ここまで、不合理な行動をする例として「囚人のジレンマ」で紹介しました。ジレンマの仕組みは理解いただけたと思います。

次に、なぜ私たちは「相手が裏切るかもしれない」と考えてしまうのか見てみます。ここでは二つのアプローチをしてみます。

  1. なぜ相手が裏切ると思うのか?
  2. 仮に相手が裏切った時に何が起こるのでしょうか?

なぜ相手が裏切ると思うのか?

まず「なぜ相手が裏切ると思うのか?」です。これは裏切った時にメリットを享受できるからでしょう。もう一度、囚人のジレンマのルールを確認しておきます。

相手は「自白する(裏切る)」を選んだ場合、懲役は1年になる可能性があります。得できる可能性があるなら、選んでしまってもおかしくありません。こうした心理が働くことで「相手は裏切るのではないか?」と考えてしまうのです。

また、囚人のジレンマの場合、自分自身も同じ状況下にいます。「裏切った方が得をする」という心理が自分の脳裏にもあるため、より考えてしまいがちなのでしょう。

相手が裏切った時に起こること

では、仮に裏切りが起きた時に何が起きるかを考えます。最悪なケースは相手が「自白する(裏切る)」を選択し、自分が「黙秘する(裏切らない)」の時。

相手がメリットを得ているという点が気に食わないのはあるかもしれませんが、それ以上に自分の懲役が長くなったことが耐え難いのではないでしょうか。

仮に囚人のジレンマのルールを少し変えてみます。相手が裏切ったとしても自分の懲役は2年のままだとしましょう(ルールが崩壊していることには触れないで起きます笑)。

この場合、裏切られたとしても、自分は損をしません。「何で相手だけ懲役が短くなるんだ!」ということにイライラを感じるかもしれませんが、先ほどよりは神経質にはならないでしょう。

裏切られた時の一番の懸念点は自分が損失を被りたくないなのです。

公共財ゲームでも同じ

余談になりますが、ゲーム理論には「公共財ゲーム」というものもあります。

4人グループを作り、1人あたり1,000円を渡します。彼らは公共のために自分のお金をいくら出すか決めます。公共に集まったお金は倍にしてそれぞれに均等に返金されます。これを10回繰り返す。

例えば、全員が全額(1,000円)を出した場合。4,000円集まるので、倍の8,000円となり、それぞれに2,000円(8,000円÷4人)が戻されます。この時、全員が1,000円ずつ得をします。

もし1人だけ0円だった場合。集まる額は3,000円(1,000円×3人)です。倍額の6,000円を返金することになるので、1人あたり1,500円になります。全額出した3人は500円しか得をしないのに、0円だった者は1,500円得をします。

また、1人だけ全額出した場合も考えてみます。集まる額は1,000円のみ。倍額の2,000円を返金すると1人当たり500円。全額出した人だけ、500円損をしてしまうのです。

このゲームでも囚人のジレンマと似たような心理があります。このゲームでも「お金を出さない者」がいた時には自分が損をする可能性があります。更に、自分はお金を出さなければ得をするのです。

本来、最も合理的な行動は、全額出してみんなで倍額ずつ増えていくこと。しかし、上記の理由からこの行動取るにはとてもハードルが高いのです。

損失を恐れているから合理的になれない

ここで冒頭の例に戻ってみます。

  • ダイエットをしたいのにお菓子を食べてしまった
  • 必要ではないのに、セール品でつい買ってしまった
  • やらなければならない仕事があるのについ先延ばしにしてしまった

これらも損失を回避したいから行動してしまっているのではないでしょうか。

お菓子を食べなかったという快楽の損失。セール時に買わなかったという機会の損失。楽しい時間を得られなかったという機会の損失。こうした得られたかもしれないものを失うのが嫌なのです。心理学ではこうした背景をプロスペクト理論と言います。

人は利益を得られる場合は少額でも利益を優先するが、損失を被る場合は最大限ゼロにしようとするというものです。1つ例を出して説明してみます。

  1. 絶対に5万円をもらえる
  2. 50%の確率で10万円をもらえるが、50%の確率で何ももらえない

この場合、人は1の選択肢(絶対にお金をもらえる方)を選ぶ傾向が強いです。少額であったとしても、間違いなく得られる利益を求めます。損しない選択肢(利益がゼロではない)を選ぶのです。

一方で以下の選択肢の場合。

  1. 絶対に5万円を失う
  2. 50%の確率で10万円を失うが、50%の確率で何も失わない

この時には、2の選択肢(お金を失わない可能性がある方)を選ぶ傾向が強いです。高額になっても、損しない可能性(損失をゼロにする)に賭けます。ここでも損を回避する行動をとるのです。

「損をしたくない」は人間の心理で最も強い。だからこそ、合理的に考えれば「損より得が上回っている」時でも、損をするかもしれないなら得を選べません

そのため、私たちは知らず知らずのうちに損をしないような行動を取っています。これが合理的ではない行動の正体です。

補足
人間には現状維持をしようとする心理もあります。ダイエットができないやダラダラしてしまうに関してはこちらが影響していることも多いです。今回はあくまでも“損失”にフォーカスして話しました。

損失の価値を見極める

どうしたら合理的な判断ができるようになるのかを最後に考えてみます。ここまで説明をした通り、不合理の裏には“損失回避”があります。

人間は得られた価値よりも、失った価値の方を大きいと考えてしまいがちです。同じ100万円でももらった時の喜びよりも失った時の悲しみの方が大きいのです。

損失回避バイアス

損と得の比率は「2.5:1」だと言われています。100万円を失った時の負の効用は、250万円を得た時の効用と同価値です。損失は2.5倍増しになっている意識を持って、物事を見てみてください。

合理的な判断のためには、その損失は回避するに値するものなのかどうかを見極めることが大事です。先ほど説明の通り、人は得られる快楽よりも、得られなかった損失を大きいと誤解します。

損失が大きいと思っても、本当に大きさは見合っているのか?を一度考えるのが良いでしょう。「損をするかもしれない」というだけで判断せずに、得られる快楽も一緒に見てみましょう。