7月25日に発売された、米澤穂信さんの最新作『可燃物』を紹介します。
主人公は警察官の葛。彼は上司からも部下からも慕われていない警部ですが、推理力は一級品。そんな彼の管轄内で発生した事件が解決するまでを描いた短編集です。
余計なことは喋らない。上司から疎まれる。部下にもよい上司とは思われていない。しかし、捜査能力は卓越している。葛警部だけに見えている世界がある。
群馬県警を舞台にした新たなミステリーシリーズ始動。太田市の住宅街で連続放火事件が発生した。県警葛班が捜査に当てられるが、容疑者を絞り込めないうちに、犯行がぴたりと止まってしまう。犯行の動機は何か? なぜ放火は止まったのか? 犯人の姿が像を結ばず捜査は行き詰まるかに見えたが……(「可燃物」)
連続放火事件の“見えざる共通項”を探り出す表題作を始め、葛警部の鮮やかな推理が光る5編。
殺人事件や事故を扱った作品ばかりなので、ジャンルとしては警察小説にあたると思います。しかし、内容は日常の謎に近いものを感じました。
今回は5つの短編のあらすじと感想をネタバレなしで紹介します!
各話のあらすじと感想
崖の下
スキー中に遭難者が出たとの通報が群馬県警に入る。捜査員が赴くと、遭難者の一人が頸動脈を刺され死亡していた。容疑者として浮上したのは、被害者と一緒に遭難していた男性。しかし、現場には凶器が見当たらないのだった。遭難中で余裕がないはずの犯人は、どのようにして凶器を隠したのか?
典型的なハウダニットを描いた作品でした。凶器はどこへ消えたのか?を考えながら読み進めることになります。
葛が推理をするための情報がどんどん提示されていきますが、謎は深まるばかりという感じでした。凶器は何だったのか、そしてどのように隠したのか。先が気になってしまいます。
そして、後半の解決パート。気づいたら物語に引き込まれてしまいました。まさか過ぎる衝撃的な事実が明らかになったからです。
こんなにも予想外なオチが待っていたとは…となりました。読後の後味も含めてクセになる。素晴らしい物語でした。
ねむけ
強盗傷害事件の最有力容疑者として浮上していた男が、深夜に事故を起こした。男は信号無視をして事故を起こした可能性がある。そうなれば、拘束して、強盗傷害事件の進展も見込める。そして、3人の人間から「男が信号無視をした」という証言が集まるのだが…。
深夜に起きた交通事故。目撃者3名は全員同じように「男が信号無視をした」と証言するのだった。しかし、それはあまりにも不自然だった。
一見関わりがないはずの3名の目撃者たち。彼らの共通点(ミッシング・リンク)とは一体何かを考えるお話です。そもそもなぜこの目撃証言が不自然なのか?という流れも面白かったですし、解決までの論理展開が鮮やかでした。
実は最初からヒントは提示されていた。オチがきれいで1番好みの作品かもしれないです。
命の恩
行楽地の山麓で発見された右上腕。これを皮切りに他の部位がどんどん見つかっていく。バラバラ遺体遺棄事件の捜査をする葛は、犯人が「なぜ」人目につくところに遺体を遺棄したのかを考えるが…。
犯人が誰なのかよりも、なぜ犯人はこんなことをしたのか?(ワイダニット)に焦点を置いた作品となっています。
バラバラにして殺したのはなぜなのか。そして、よりにもよってなぜ人目につくところに遺体を遺棄してしまったのか。犯人の意図や動機を探っていく物語です。
真相がわかったときにはゾッとする狂気を感じてしまいました。なにかに取り憑かれるとはこういうことを言うのかなと少し考えてしまいました。
可燃物
ある場所で起きた連続放火事件。いずれも大事にはなっていないが、いたずらでは済まされない事案だった。葛たちも応援に駆り出されるが、ある日を境に放火は止まってしまう。犯人は何が目的だったのか?
放火犯は誰なのか。そして目的は何だったのか。犯人当てとその動機の両方を考えるお話でした。
事件の動機については「ありそうで、なさそうで、やっぱりあるかも」という感じを受けました。矛盾しているように見えても、本人からすると合理的なことをやっている。そういったケースの一部始終を見せられたような気がしました。
犯人と対峙する後半のパートはかなりのめり込んで読んでしまいました。
本物か
レストランで起こった立てこもり事件。店内には店長を人質にとった男がいた。どのようにして事態を収束させるかを考えていた警察官たちだったが、あるものが目に映る。犯人が拳銃を手にしていたのだった。拳銃ははたして本物なのだろうか。本物だとしたら、突発的な事件のはずなのに、なぜ拳銃を持っていたのか?
立てこもり事件の様子が描かれている物語。犯人は何のために立てこもりをしているのか。そして、刑事たちが見た拳銃は本物なのだろうか。
店内で何が起きたのかを推理していくので、安楽椅子探偵のような雰囲気がありました。店内の様子がわからない。けれど、真相はこうなのではないか。これまでとは違ったスタイルだったからか、緊迫感も感じながら読めて楽しかったです。
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