米澤穂信さんのおすすめ小説をTOP10でまとめてみました。実は、私が最も好きな作家さんです。“日常の謎”と呼ばれるジャンルの作品が多い米澤さん。青春ミステリの『氷菓』が有名でしょう。
しかし、長編ミステリや一風変わった切り口の作品も数多く発表されています。『満願』や『王とサーカス』では本格的なミステリとして3冠を獲得しています。
米澤作品の魅力は、話のところどころに仕掛けられているちょっとした謎。いわゆる日常の謎です。
- いつの間にか鍵をかけられてしまった教室
- 訪れると必ず死ぬという「死を呼ぶ峠」
- 雨が降っているのに持っている傘を差さない男
こうした謎を物語の中に織り交ぜてくれるので、読んでいても飽きずに進められます。しかも、最後には物語の根幹に関わる伏線だったというケースもあり、読者を驚かせてくれます。
今回はその中でもおすすめしたい小説を私の独断でTOP10でランキングづけしました。好きな作品ランキングだと、おすすめとは異なってしまうので、あくまでもおすすめ作品です。どれも面白いのですが、特に読んで欲しい作品を紹介します!
Contents
10位 『満願』
「もういいんです」人を殺めた女は控訴を取り下げ、静かに刑に服したが…。鮮やかな幕切れに真の動機が浮上する表題作をはじめ、恋人との復縁を望む主人公が訪れる「死人宿」、美しき中学生姉妹による官能と戦慄の「柘榴」、ビジネスマンが最悪の状況に直面する息詰まる傑作「万灯」他、全六篇を収録。史上初めての三冠を達成したミステリー短篇集の金字塔。山本周五郎賞受賞。(「BOOKデータベース」より)
6つの短編が収録されている本作。人が抱えている闇を「これでもか!」というほど丁寧に描いていました。
ミステリ三冠本なので、どの作品にも読者が気になる謎が用意されています。直接的な謎ではない作品もありますが、どれも最後にはすべてが明らかにされる形でスッキリします。
例えば「万灯」という作品。ある男がベッドでうなされているシーンから物語は始まります。彼は万灯を前に何かの裁きを受けているという。
「裁きとは何なのか?」「彼はどんな状況にいるのか?」これらがわからないまま、話は数か月前に遡ります。そして、徐々に彼の身に何が起こっていたのかを読者は知ることになるのです。
どの作品も冒頭からオチまで飽きることなく、抑揚をつけて物語は進んでいきます。先が気になって仕方ないです。そして、読後にはやるせなさでいっぱいになります。それぞれで異なる余韻を与えてくれますし、どの短編も外れなしでした。
【感想】ミステリ三冠!人の暗い面に焦点を当てた6つの短編集(米澤穂信『満願』)9位 『さよなら妖精』
1991年4月。雨宿りをするひとりの少女との偶然の出会いが、謎に満ちた日々への扉を開けた。遠い国からはるばるおれたちの街にやって来た少女、マーヤ。彼女と過ごす、謎に満ちた日常。そして彼女が帰国した後、おれたちの最大の謎解きが始まる。謎を解く鍵は記憶のなかに―。忘れ難い余韻をもたらす、出会いと祈りの物話。『犬はどこだ』の著者の代表作となった清新な力作。(「BOOK」データベースより)
外国からやってきた少女・マーヤと学生たちの物語。日常の謎を題材にしていますが、マーヤという外国の人から見た不思議が多々あって面白かったです。
弓道で良い点を取っているのに怒られるのはなぜか?など言われてみると、当たり前ではない謎があって、スラスラとページを読み進められました。
そして、本作の醍醐味はラストシーン。マーヤが帰った国を推理する場面です。1つずつ候補となる国を潰していくのですが、行き着いた先にあった真実は苦さたっぷりでした。
【感想】ほろ苦い青春小説!日本文化と日常の謎(米澤穂信『さよなら妖精』)8位 『折れた竜骨』
ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた……。自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、「走狗(ミニオン)」候補の八人の容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上の牢から忽然と消えた不死の青年――そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来はいつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り着くことができるのか?現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と謎解きの巨編登場!(「BOOK」データベースより)
中世ヨーロッパを舞台にしているし、魔術を扱っているミステリ。どんな話なのだろうかと思いつつも、あまり気乗りはしませんでした。『王とサーカス』と同じく、米澤作品に触れてなければ手を出していなかったことでしょう。
しかし、大きな間違いでした。とてつもなく面白かったです。生涯読んだ長編小説では1番好きな作品。
本作のポイントはSF設定をキレイに使ったミステリという点。ヨーロッパの島の領主が何者かに殺害されてしまいます。殺人犯を探すという王道な展開なのですが、ここでSF設定が大事になります。
犯人には自分が領主を殺したという自覚がないのです。犯人は邪悪な魔法使いに魔術をかけられ「領主を殺せ」という命令をされてしまっている。しかも、魔術をかけられたことも覚えていないのです。
容疑者は8人。邪悪な魔法使いに対抗している騎士・ファルクは、「犯人では有り得ない」という消去法によって、犯人を絞り込んでいきます。そして、このアプローチがとにかく見事。
様々な理由から「犯人ではない」という推理を進めるのですが、ここにも設定を駆使した様々な伏線が用意されていました。読み終えた後の爽快さは忘れがたいです。
『屍人荘の殺人』が面白かったという人には是非とも読んで欲しい小説です。絶対に楽しめます!尚、本作は漫画化もされていますので、「小説は苦手…」という場合はそちらを読んでみてください!
7位 『追想五断章』
大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり―。五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。(「BOOK」データベースより)
古書店で働く菅生。ある日、客の女性から「死んだ父親が書いた“結末のない物語”(リドルストーリー)を探してほしい」と依頼されます。
彼女の家には小説の結末と思われるラスト一行が5つありました。ラスト一行と結びつくはずの5つの小説とはどんな話なのか?これらが明らかになる過程はとても素晴らしかったです。
本作のおすすめポイントは、5つのリドルストーリーを楽しめるという点。実際に菅生が見つけた話が小説内で描かれています。
例えば「奇蹟の娘」という話。事故で目が覚めなくなってしまった娘は、ある理由から奇跡の娘と呼ばれていた。そんなある日、彼女の家が火事になってしまった。本当は眠っていないのではないか?と疑った男が火をつけたのでした。
「彼女は起きていたのか?それとも本当に眠っていたのか?」
菅生が見つけた話ではこの答えは明かされないままでした。しかし、依頼人の女性が持っているラスト一文を組み合わせると物語は完結するのです。このような形で、5つの小説を見つけていくのですが、その先には予想できない展開が待っていました。
リドルストーリーという設定を駆使した伏線と回収がとても素晴らしく、後半は一気読みでしたね。また、物語自体にもちょっとした遊びが仕掛けられていて、リドルストーリーを隅々まで利用していました。
【感想】リドルストーリーを利用したどんでん返し(米澤穂信『追想五断章』)6位 『インシテミル』
「ある人文科学的実験の被験者」になるだけで時給十一万二千円がもらえるという破格の仕事に応募した十二人の男女。とある施設に閉じ込められた彼らは、実験の内容を知り驚愕する。それはより多くの報酬を巡って参加者同士が殺し合う犯人当てゲームだった―。いま注目の俊英が放つ新感覚ミステリー登場。(「BOOK」データベースより)
高時給につられてやってきた十二人の男女。ただ過ごすだけでも、十分なお金をもらえるのですが、そこでは人を殺すと時給が上がるルールがありました。
犯人だとバレてしまうと、通常時よりも時給が下がる。犯人を見つけると時給が上がるなどのルールがたくさんあり、本格ミステリを疑似体験(実際に死ぬので疑似ではないですが)するような形で実験は進んでいきます。
誰も殺さなければ平穏に過ぎるはずなのですが、3日目の朝、最初の犠牲者。これを皮切りに殺人が連鎖していきます。果たして、犯人は誰なのか?
この作品が面白いのは、推理小説を痛烈に皮肉っている点です。様々な面でミステリのお約束をバカにするような展開が見受けられもします。
各人に凶器が配られるシーンがあるのですが、そこにはクスっとなるようなことがありました。もちろん犯人は誰なのか?というミステリ自体の解決もとても鮮やかでした!
【感想】推理小説を皮肉った新本格ミステリ(米澤穂信『インシテミル』)5位 『クドリャフカの順番』
待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲―。この事件を解決して古典部の知名度を上げよう!目指すは文集の完売だ!!盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに…。大人気“古典部”シリーズ第3弾。(「BOOK」データベースより)
「古典部シリーズ」の3作目にして、初の長編。文化祭を舞台にしたお話です。
発注しすぎた文集・氷菓を売るために古典部員たちは奮闘していきます。そんな中、文化祭に出展している部活動から道具が盗まれる事件が発生。犯行現場には「十文字」という名前と犯行声明が。一体誰が何のためにやっているのか?
この盗難事件に関わる謎の解明がとても素晴らしいので、大好きな作品です。物語全体に張り巡らされた伏線が一気に回収されていくので、読んでいてとても気持ち良い。話全体のオチもキレイで、最初から最後まで文句なし!
また、これまでの古典部シリーズでは、折木の一人称視点でしたが、本作では主要人物がそれぞれの視点で代わる代わる語られます。彼らは何を思っていて、どんな葛藤を抱えているのか。心理描写も描かれる本作から、青春のほろ苦さを感じられますよ。
ミステリとしても最高な上に、古典部員の人間ドラマもある。私の中では、古典部シリーズで最も好きな作品で面白い作品でした。
【感想】文集完売を目指して奮闘!盗難事件の犯人と動機は?(米澤穂信『クドリャフカの順番』)4位 『王とサーカス』
海外旅行特集の仕事を受け、太刀洗万智はネパールに向かった。現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王殺害事件が勃発する。太刀洗は早速取材を開始したが、そんな彼女を嘲笑うかのように、彼女の前にはひとつの死体が転がり…2001年に実際に起きた王宮事件を取り込んで描いた壮大なフィクション、米澤ミステリの記念碑的傑作。『このミステリーがすごい!2016年版』(宝島社)“週刊文春”2015年ミステリーベスト10(文藝春秋)「ミステリが読みたい!2016年版」(早川書房)第1位。(「BOOK」データベースより)
9位で紹介して、『さよなら妖精』で探偵役を務めていた太刀洗万智が主人公の作品です。ジャーナリストになった太刀洗は、自らの使命のために記事を書き上げようとします。
しかし、取材対象者たちは彼女を快く思いません。「ジャーナリストとは何なのか?」という彼女の葛藤がキレイに描かれている作品です。
もちろん、ミステリとしての評価が高いのも忘れてはいけません。ネパールを舞台にしているので「海外が舞台か…」と敬遠をする人がいるかもしれません。実際、私も米澤さんの作品をたくさん読んでいなければ、手を出していなかったと思います。しかし、それはとても勿体ないです。
ある殺人事件の謎を追うのが本作の大きなテーマですが、そこまでの過程がとても素晴らしいですし、人間ドラマとして一級品。海外を舞台にしているからこその展開もあるので、謎解き好きは読んで後悔しません。
ちなみに、本作は最後の最後にとんでもないどんでん返しが待ってますのでお楽しみに。犯人が明らかになる過程以上にこのオチには痺れました。
【感想】ジャーナリストの本質とは?王室で起きた事件の謎に挑む(米澤穂信『王とサーカス』)3位 『ボトルネック』
亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、何かに誘われるように断崖から墜落した…はずだった。ところが気がつくと見慣れた金沢の街にいる。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。もしやここでは、ぼくは「生まれなかった」人間なのか。世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。(「BOOK」データベースより)
もしこの世界に自分がいなかったら、周囲はどうなっているのだろうか?そんな妄想が描かれているのがこの作品です。しかも、とんでもなく悪い方向で表現されています。
主人公のリョウは、自分が生まれなかった世界に飛ばされてしまいました。しかもそこでは、自分の世界では上手くいっていなかったことが、すべて良いように進んでいたのです。
自分がいないというだけで、何もかもが好転している世界。この世界のボトルネックは自分自身だったのではないかと考え始めるリョウ。最後にはある決断を迫られるのでした。
何といっても読んでいて心が苦しくなる作品。とにかく重かったです。自分がいない方が世の中が良かったという現実を突きつけられたらとても嫌ですよね…。読んだ後にどのように感じたかを話し合いたくなる。そんな物語です。
【感想】落ち込んでる時に読んだらダメ!自分は不要な人間?(米澤穂信『ボトルネック』)2位 『儚い羊たちの祝宴』
夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」。夏合宿の二日前、会員の丹山吹子の屋敷で惨劇が起こる。翌年も翌々年も同日に吹子の近親者が殺害され、四年目にはさらに凄惨な事件が。優雅な「バベルの会」をめぐる邪悪な五つの事件。甘美なまでの語り口が、ともすれば暗い微笑を誘い、最後に明かされる残酷なまでの真実が、脳髄を冷たく痺れさせる。米澤流暗黒ミステリの真骨頂。(「BOOK」データベースより)
各所でおすすめをしまくっている本作。これまで読んだ中で最も面白かった小説です。本作には5つの短編が収録されているのですが、そのどれもで最後の一行にどんでん返しが待っています。
何が素晴らしいかというと、どれもレベルが高すぎることです!
“ラスト一行がすごい”という触れ込みはよくあるので、一つ目の「身内に不幸がありまして」はどんなものかなという軽い気持ちで読みました。見事にひっくり返されました。しかも単に、どんでん返しをさせるのではなくて、思わず「うまい!」と唸ってしまうほどキレイでした。
中でも「北の館の罪人」と「玉野五十鈴の誉れ」の2作品は特に評価が高いです。
私のお気に入りは前者の「北の館の罪人」。数年前、暑い夏の日に読んでいたのにラスト一行で鳥肌が立ったことを今でも覚えています。「玉野五十鈴の誉れ」のラスト一行は、前振りが盛大に効いていていて一気に落とされます。狂気を覚えるレベルでした。
5回も極上のどんでん返しを楽しめる本作。どんでん返しが好きなのに読まない手はありません。まだ読んでいない人がとても羨ましいので、気になったら是非読んでください!
【感想】どんでん返し好きなら読んでおきたい一冊(米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』)1位 『氷菓』
いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた三十三年前の真実―。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。さわやかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ登場!第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞。(「BOOK」データベースより)
やはりオススメを一冊選ぶならこれになってしまいますね笑。
実写映画化&アニメ化がされている「古典部シリーズ」。その第一作目が『氷菓』です。映画やアニメのタイトルにもなっているので、名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
主人公は省エネ主義をモットーにしている高校生の折木奉太郎。彼が同級生の千反田えるに巻き込まれて、日常の謎を解明していくというのが、本作の大きな流れです。
日常の謎とは別に、この作品には大きな謎があります。それは「古典部の文集の名前がなぜ“氷菓”なのか?」です。一見、古典とは何も関係がないように思えますが、そこにはある大きな理由が隠されていました。
ライトな語り口調で読みやすい上に、ページ数は200程度。普段本を読み慣れていない人にも読んで欲しい作品です。尚、本作はシリーズものの一作目。気に入った人は続きの話も手に取ってほしいと思います。
【感想】小説初心者でも楽しめる傑作(米澤穂信『氷菓』) 【古典部シリーズ】米澤穂信『氷菓』の読む順番と全作の感想伏線回収が素晴らしい&掛け合いが最高
おすすめ小説を10作品紹介してきました。どの作品も先が気になる展開が用意されており、ページをめくる手が止まりません。長い作品でもあっという間に読めてしまいます。ミステリ好きは読まない手がありません。
また、読後には何とも言えない気分になる点も、米澤穂信さんの魅力の一つ。まず『氷菓』で好きになっていただいてから、様々な作品に触れてください。
「何でこんなことするの…」「どうしてこうなってしまうの…」
このような、やるせない気分になることが多いです。『氷菓』などの古典部シリーズに触れてからだと尚更、そう感じることでしょう。
まずは『氷菓』から古典部シリーズを読んでいただき、今回おすすめした他の作品も手に取ってみてください。あまりにも落差が激しすぎる作風に驚くとともに、きっと米澤穂信さんの虜になってしまうことでしょう…。