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【感想】本泥棒は誰?本の世界に飛ばされる呪いの正体(深緑野分『この本を盗むものは』)

この本を盗むものは

2021年本屋大賞ノミネート作品、深緑野分『この本を盗むものは』を紹介します。

本の蒐集家の家系で生まれ育った高校生の御倉深冬。しかし、彼女は本が好きではありませんでした。そんなある日、深冬は本の世界に入り込んでしまいます。原因は御倉家から本が盗まれたためでした。

書物の蒐集家を曾祖父に持つ高校生の深冬。父は巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めるが、深冬は本が好きではない。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、深雪は残されたメッセージを目にする。“この本を盗む者は、魔術的現実主義の旗に追われる”本の呪いが発動し、街は物語の世界に姿を変えていく。泥棒を捕まえない限り元に戻らないと知った深冬は、様々な本の世界を冒険していく。やがて彼女自身にも変化が訪れて―。(「BOOKデータベース」より)

本が盗まれることで発動してしまう呪い・ブックカースは泥棒を捕まえない限り、元には戻りません。ファンタジー、ハードボイルドなど様々なジャンルの世界を、深冬は冒険することになるのでした。

本の町で起こる不思議な現象

物語の舞台になっている読長町は、本の町として名が知られています。深冬の曽祖父である御倉嘉市は、全国に名の知れた読書の蒐集家で、彼が作った大きな書庫“御倉館”は町の名所でした。

嘉市の娘、たまきに引き継がれた後にある事件が起こってしまいます。そのせいで、たまきは御倉館の蔵書に呪いをかけてしまうのでした。

本を盗んでしまうと、町全体が本の世界になってしまうという呪い。本が嫌いな深冬でしたが、この現象にたびたび巻き込まれることになるのでした。

5つの章から成る物語

本作は5話構成の小説で、それぞれで本の世界の冒険が描かれています。第一話のタイトルは「魔術的現実主義の旗に追われる」

ある不思議な体質を持っている二人の兄弟に関しての物語。本が盗まれたことで、読長町は真珠雨が降り注ぐことになるのでした。

泥棒を見つけようと奔走する深冬。急に現れた女性の真白と一緒に、物語のストーリーをヒントに犯人探しを始めるのでした。

本作は現実世界の話、本の世界の話が交互に繰り返されていきます。犯人探しの物語としては一話完結になっていますが、物語自体は五話で完結。この不思議な現象にはどのような背景があるのでしょうか?

ジャンルの枠に収まらない作品

本作はさまざまなジャンルの要素が入っている物語です。深冬が入り込んでしまう本の世界は多種多様。ハードボイルドやファンタジーなど一冊の中に幅広いジャンルの物語を楽しめます。

また、本を盗まれることで起こるブックカース。この超常現象はなぜ起こってしまうのか。犯人は何のために本を盗んでいるのか。この点はミステリぽさもあると思います。(そこまで大きな謎ではないですが)

作者の深緑野分さんも、本の色んなジャンルが入り混じった自由なものを書いたと言っています。幅が広い物語の世界を堪能できる、新感覚の冒険小説。何となく森見登美彦さんに似ているようにも感じました。

本の魅力が詰まっている本作。本好きな人は是非手に取ってみて欲しいなと思います。深冬と一緒に本の世界を楽しんでみてください。