知念実希人『崩れる脳を抱きしめて』を紹介します。
広島から神奈川の病院に実習に来た研修医の碓氷は、脳腫瘍を患う女性ユカリと出会う。外の世界に怯えるユカリと、過去に苛まれる碓氷。心に傷をもつふたりは次第に心を通わせていく―。実習を終え広島に帰った碓氷に、ユカリの死の知らせが届く。彼女は死んだのか?ユカリの足跡を追い、碓氷は横浜を彷徨う。驚愕し、感動する、恋愛ミステリー!第8回広島本大賞、第4回沖縄書店大賞、第1回一気読み大賞、3冠!(「BOOKデータベース」より)
研修医と脳腫瘍を患う女性
物語の舞台は葉山にある岬病院。そこに研修医としてやってきた碓氷蒼馬(うすいそうま)と、脳に病気を抱えている女性の弓狩環(ゆがりたまき 通称:ユカリさん)を中心に展開されています。
碓氷は15年前に多額の借金を残して家族のもとを去った父を恨んでおり、その借金を返すために医師を目指しているのでした。
一方のユカリは、ひょんな理由から莫大なお金を持ってしまった女性。しかし、彼女は脳腫瘍を患っているため、生い先が長くない。お金に執着しても意味がないと考えています。
お金のために生きる男性とお金はあるのに生きられない女性。
この対比が作品にキレイにハマっています。そして、研修医と患者という関係を超えて、2人はお互いに特別な感情を抱いていくようになるのですが…。
ラブストーリーのような展開
本作は2部構成になっており、それぞれで謎解きが行われます。第一章では、碓氷の父が失踪した理由。謎が解けるまでの流れを、碓氷とユカリのこれまでの生い立ちと一緒に描いていく。
お互いを知ることで少しずつ心を通わせていく2人。しかし、ユカリの余命はわずかしかありません。碓氷はユカリへの気持ちを恋だと確信し、思いを告げるのでした。(結果は読んで確かめてください!)
そして、第二章。これまでに描かれていた世界が一変してしまうような出来事が起こってしまいます。何が本当で何が嘘なのかがわからなくなる。
ちょっとしたどんでん返しが中盤から待ち構えていました。ラブストーリーという体裁は保ちつつも、ここから一気にミステリ色が強くなります。
最後はしっかり驚きを用意してる!
二章で何が起こるのかは書けないので省略しますが、ここからは怒涛の展開が続きます。まず、碓氷の置かれていた境遇が想定外過ぎることだったことがわかります。
また、ユカリさんについてもわけのわからない状況になりました。あらすじに書いてあるので紹介しますが、彼女は脳腫瘍のせいで亡くなってしまいます。しかし、ここからの展開は予想できない…。
ある理由から、彼女が本当に死んだのか?を調べる碓氷。そこでわかったことの数々に驚きの連続でした。先を予想していたのですが、仕掛けられていた伏線にしっかりとハマりました。
ラストの数十ページまで気が抜けない。どんでん返しの連続にかなり満足できた一冊でした。