心地よい読後感とどんでん返しに定評がある辻村深月さん。
以前は本屋大賞を受賞した作品を紹介しました。
【感想】少し不思議な冒険ミステリ(辻村深月『かがみの孤城』)今回は辻村作品の中で、私が最も好きな1冊を紹介します。
『スロウハイツの神様』です。
ある快晴の日。人気作家チヨダ・コーキの小説のせいで、人が死んだ。
猟奇的なファンによる、小説を模倣した大量殺人。
この事件を境に筆を折ったチヨダ・コーキだったが、
ある新聞記事をきっかけに見事復活を遂げる。
闇の底にいた彼を救ったもの、それは『コーキの天使』と名付けられた少女からの百二十八通にも及ぶ手紙だった。事件から十年―。
売れっ子脚本家・赤羽環と、その友人たちとの幸せな共同生活をスタートさせたコーキ。
しかし『スロウハイツ』の日々は、謎の少女・加々美莉々亜の出現により、
思わぬ方向へゆっくりと変化を始める…。(「BOOK」データベースより)
怒涛の伏線回収はもちろん、それぞれの登場人物にフォーカスした人間ドラマも素晴らしい作品でした。恋愛要素もあれば、青春要素もあり、読んだ人に勇気を与えてくれる物語です。
現代版トキワ荘を舞台にした人間ドラマ
本作は、現代版トキワ荘のような物語です。
手塚治虫さん、赤塚不二夫さん、藤子不二雄さんなどの後の人気漫画家が一堂に介していたアパートでした。
創作家を目指す人が住むアパート、スロウハイツを舞台に物語は展開していきます。
オーナーは人気脚本家の赤羽環。
環にライバル意識を持っている円屋伸一。
漫画家の卵、狩野壮太。
映画監督の卵、長野正義。
画家の卵、そして長野の彼女である、森永すみれ。
そして、人気小説家のチヨダ・コーキ。
売れないことでの悩みはもちろん、人気創作家だからこその悩み。近しい人間への嫉妬や羨望。
こうした人間ドラマを中心に物語は展開されていきます。
伏線が多すぎて後半は怒涛の展開
登場人物ひとりひとりに焦点を当てた物語展開が見どころの本作。
恋愛や青春の気持ちよさはもちろんですが、それだけではありません。
私がこの作品を好きな理由は後半の伏線回収の凄まじさです。
赤羽環に関する伏線。チヨダ・コーキに関する伏線。
これらはもちろんですが、他の登場人物のドラマに関する伏線もしっかり回収されます。
「それも伏線なの?」というくらいキレイに謎が明らかになってくるので、ミステリ好きにはたまらないラストでした。
そして、すべてが救いのある展開なのが良いです。
辻村作品の面白さ
最後に辻村作品の面白さについて触れておきます。
辻村作品では、作品間のリンクがあるのが特徴です。
本作では『凍りのくじら』に登場した芦沢理帆子が、環の友人として登場します。
本作は最初に読んでも特に問題ありませんが、辻村作品では読む順番には注意をした方が良いです。
また、この作品のスピンオフとして、『V.T.R.』という作品があります。
これは、チヨダ・コーキが書いた作品として世に刊行されています。
辻村深月が書いたとは思えない、本当にチヨダ・コーキが書いたような文章は素晴らしかったです。
ちなみに、解説は赤羽環が担当しています。
ここまでの演出をしちゃうのも、辻村作品の良さです。
ミステリ好き&青春ドラマ好きには絶対に読んでほしい小説です。