【感想】リドルストーリーを利用したどんでん返し(米澤穂信『追想五断章』)

リドルストーリーという物語をご存知でしょうか?

結末を明記せず、読者に真相をゆだねる物語を言います。

芥川龍之介の『藪の中』が最も有名ですね。

その作風から、どうしてもモヤモヤした終わり方になってしまうので、人によって好き嫌いが別れガチです。

今回はリドルストーリーの構造を題材した作品を紹介します。

米澤穂信『追想五断章』です。


大学を休学し、伯父の古書店に居候する菅生芳光は、ある女性から、死んだ父親が書いた五つの「結末のない物語」を探して欲しい、という依頼を受ける。

調査を進めるうちに、故人が20年以上前の未解決事件「アントワープの銃声」の容疑者だったことがわかり―。

五つの物語に秘められた真実とは?青春去りし後の人間の光と陰を描き出す、米澤穂信の新境地。精緻きわまる大人の本格ミステリ。(「BOOK」データベースより)

リドルストーリーに隠された謎とは?

理由があって伯父の古書店で居候をする主人公の菅生芳光。

ある日、古書店を訪れた1人の女性、北里可南子から死んだ父が書いたリドルストーリーを探してほしいと依頼される。

父の遺品整理の際に、物語のラストと思われる1行が5つ(5作品分)見つかったため、その作品を探しているというのだ。

後に、叶黒白は「アントワープの銃声」という事件の容疑者だったことが判明する。

事件はリドルストーリーと何か関連があるのか…?

物語中に出てくる5つの短編もなかなかに面白い作品でした。

5つのリドルストーリーを簡単に紹介!

5つの物語について、ネタバレにならない範囲で簡単に紹介してみます。

奇跡の娘

ルーマニアを旅行した時の物語。

事故で頭を打ってから眠りから覚めない1人の女の子と出会った。

世の中の醜悪を見ないで済むことから「奇跡の娘」と呼ばれていた。

しかし、ある日、彼女の住む家が火事になってしまう。本当は目が覚めていると疑った者が火を放ったのだった。

燃え盛る家に1人取り残されてしまった「奇跡の娘」。

彼女は本当に眠りから覚めていなかったのか? 

それとも眠っているふりをしていたのか?

転生の地

旅行で訪れたインドの街での物語。

その地では、ただ人を殺すよりも、肉体を傷つける方が重罪とされていた。

目の前ではある男の裁判が行われていた。

彼は友人を谷底に落として殺害をした。しかし、心臓を一突きにした跡があった。

心臓を突いて殺した後に、谷底に落ちたのであれば彼はただの殺人者。

ただし、谷底に落ちた後に心臓を突いたのであれば、肉体を傷つけた殺人者になる。

前者であれば、男だけが裁かれる。しかし、後者は家族も一緒に裁かれてしまう。

果たして、判決はどちらとして下るのか?

小碑伝来

中国を旅行した際の物語。

その地では、南宋時代の1人の男を悼んだ碑が立っていた。

彼は軍である失態を犯してしまい、将軍の逆鱗に触れてしまった。

罰として、屋敷に妻を閉じ込められてしまう。そして、将軍は男にこう言い渡した。

「妻を助けるか、自分を助けるかを選べ」

妻を助けるには自分で自分の首を刎ねる。

自分が助かりたいなら屋敷に火を放つ。

男はどちらの選択をしたのだろうか…?

暗い隧道

ボリビアを旅行した時に物語。

宿に泊まっていたある男が宿代を散財してしまった。

男は自分の妻と娘に持ってくるように依頼したものの、予定時刻を過ぎてもやってこない。

話を聞くと、罠が仕掛けられているかもしれない隧道を通ってくるように指示していたという。

何と無謀なことをさせた…。と憤る同じ宿にいる者たち。

しかし、軍でスパイ経験のある男は、罠があるのかないのかを知っているのだった。

安全な道と知っていたから通るように指示をしたのか?

それとも、危険を知って通るように指示をしたのか?

男の真意はどちらか?

雪の花

スウェーデンに伝わる伝説について。

浮気性の男と一途な女の物語。ある日、女は亡くなってしまう。

男の誕生日に雪の花を摘もうとして、崖に落ちてしまったのだ。

真実を知った男は銃で自身の頭を打ち抜き自殺してしまう。

しかし、本当に女は誕生日のために花を摘もうとしていたのか?

2人の間に愛はあったのか? それとも…。

物語の展開は本当に上手

5つの短編を見つけるまでの流れはもちろんですが、起承転結の「転」にあたる展開はお見事でした。

リドルストーリーをうまく利用した伏線回収は心地よかったです。

「そういうことだったのか…!」と思わずうなるはず。

どんでん返しを用意してくれる安定のストーリー展開はすごいなと感じました。

ラストは人によって好き嫌いが別れるかも…

ラストに行きつくまでに謎は解明され、驚きも用意してくれています。

読み応えはたっぷりの作品です。

ただ、ラストはまさに米澤穂信さんらしいというか…。

本当に人によって好き嫌いは別れるだろうなと感じました。笑

僕は皮肉のある物語は大好きなので、結構好きでした。

米澤穂信さんは『インシテミル』でも似たようなことをしてますからね。

【感想】推理小説を皮肉った新本格ミステリ(米澤穂信『インシテミル』)

読んでこの意味をわかってもらえたら嬉しいです。笑