ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』を紹介します。絵本のような雰囲気なのに、内容はかなり風刺のきいている作品です。
小さな小さな“内ホーナー国”とそれを取り囲む“外ホーナー国”。国境を巡り次第にエスカレートする迫害がいつしか国家の転覆につながって…?!「天才賞」として名高いマッカーサー賞受賞の鬼才ソーンダーズが放つ、前代未聞の“ジェノサイドにまつわるおとぎ話”。(「BOOK」データベースより)
内ホーナー国と外ホーナー国の2つの国の国境を巡る物語。設定がかなり変わっているので、現実味はなく、絵本のような独創的な世界観で作品は進行していきます。
しかし、内容は世の中を皮肉ったようなものになっているのでした…。
小さい国と大きな国の物語
本作でメインに語られるのは、内ホーナー国と外ホーナー国の2つの国です。しかし、この2つの国は、いま想像したような国ではないと思います。
というのも、小さい内ホーナー国には、人が一人しか入るスペースがないからです。小さいの度合がイメージしていたものとは全然違うでしょう。
また、この作品に登場するのは人のようで人ではない存在です。おもちゃのような外見をしていて、体は部品でできているような描写があります。幻想的な世界の物語なのです。
独裁者として成り上がるまで
ある日、内ホーナー国が、縮んだことで、一人も入るスペースがなくなってしまうということから物語は始まります。フィルという、外ホーナー国の国民が、ある入れ知恵をしたことによって、彼は権力を強めていくのでした。
傍から見たら、過激に思えるような行為を、一切のためらいを見せずに実行していくフィル。そして、周囲の人間は止めることがありません。さらには、家来や王の配下さえも味方にしていって、勢いは増していくばかりです。
人々が抱えている鬱憤を体現してくれる人、不平不満を解消してくれる存在として、勢いをつける姿は、なんとなく現代にもあてはまるように感じてしまいました。
絵本のように現実を描いている?
ここまでの感想を聞いた人ならわかる通り、本作は世の中で起きているセンシティブなテーマを、人ではないキャラクターを使って表現した、風刺の効いた物語です。
フィルというキャラクターが、独裁者として崇められるまでの過程やその後の言動、そして崩れていくまでの流れが、ユーモアを持って描かれています。
その時代を生きていたわけではありませんが、このようにして独裁者や過激な運動というものはこのようにして、雰囲気が醸成されていくのかなとも感じました。
独裁者の時代は短いものであるということも含めて表現されており、まさにタイトル通り“短くて恐ろしい”フィルの時代を描いた物語になっています。