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【感想】不思議な世界を堪能できるホラー小説(恒川光太郎『夜市』)

夜市

恒川光太郎『夜市』を紹介します。

妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた―。奇跡的な美しさに満ちた感動のエンディング!魂を揺さぶる、日本ホラー小説大賞受賞作。

第12回日本ホラー小説大賞を受賞した本作。恒川光太郎さんのデビュー作で、表題作を含む2つの物語から構成される小説です。

ホラー小説大賞ではあるものの、身の毛がよだつ怖さはありません。妖怪やモノノケのような、不思議な雰囲気がある作品でした。今回もネタバレなしで作品の紹介をしていきます。

「夜市」

大学生のいずみは、高校の同級生である裕司に「夜市に行かないか?」と誘われる。岬の森で開催される夜市では、妖怪たちが様々なものを売買していた。小学生の時に一度参加したことがあった裕司。彼は夜市であるものを買い戻そうとするのです。

最初から最後まで一貫してファンタジー感が強いお話。妖怪が出てきますが、あまりホラーという感じはしませんでした。怖いというよりは異世界の不思議な物語です。

夜市には売買するまで外に出られないというルールがありました。高校では野球部の主力選手として注目されていた裕司。実は彼の才能は、小学生の時にこの夜市で購入したものでした。代償は裕司の弟。夜市から戻った裕司には、弟の存在が世界から消えていたのです。

最初から最後まで、不思議な世界を提供してくれる物語で読めば読むほど作品にハマってしまいます。好奇心に身を任せているうちに、読者も夜市の世界に迷い込んでしまう。構成まで含めてキレイな物語でした。

「風の古道」

7歳の時に迷い込んだ未舗装の道。存在しているのに存在していないという矛盾をはらんだ道です。それから5年後。12歳になった私は親友のカズキとこの道に足を踏み入れます。

しかし、出口がまったく見つからなかった。この道は、本来は一般人が通れるものではなく、特殊な修行をしたものではないと、入れないのでした。出口も簡単には見つからない道で、茶店にいたレンという青年に案内してもらいながら出口を探すのでした。

「夜市」同様に不思議な世界観を持っている物語。当初は男の子2人の異世界物語かと思っていたのですが、段々と不穏な展開になっていってしまいます。

思っていなかった展開の連続で、個人的にはこちらの話の方が好みでした。人生の岐路やどのように生きるのかを考えさせられる。不思議な道で起こる事件を通じて、生き方を思い知らされた気がします。

すぐに読めるのでオススメ!

収録されているのは短い作品が2つのみ。どちらも不思議な世界に入ったらあっという間に読み終わってしまう作品でした。ホラーが苦手という人でも、あまり怖くないので問題ないはずです。

また、どちらの話も読後には悲しい余韻を感じられます。心に響くちょっとしたメッセージを受けとれる。感情を動かされたいという人は手に取って読んでみてはいかがでしょうか。

漫画もあるので、「活字は…」という方はこちらでも良いかもしれませんね!