不思議で不気味な物語と驚きのラストに定評がある作家、芦沢央さん。
2019年には『火のないところに煙は』が本屋大賞の候補作になりました。
これから更に人気になりそうな小説家の一人でしょう。
今回はそんな芦沢央さんの短編小説集を紹介します。
『許されようとは思いません』です。
かつて祖母が暮らしていた村を訪ねた「私」。
祖母は、同居していた曾祖父を惨殺して村から追放されたのだ。
彼女は何故、余命わずかだったはずの曾祖父を殺さねばならなかったのか…
究極の選択を迫られた女たちの悲劇を、端正な筆致と鮮やかなレトリックで描き出す、ミステリ短篇集の新たなるマスターピース!
磨き抜かれたプロットが、日常に潜む狂気をあぶりだす全5篇。(「BOOK」データベースより)
あらすじ紹介にもある通り、人の闇に焦点を当てている本作。
どこか気味の悪くて、最後に驚きがある5つの短編が収録されています。
目撃者はいなかった
うだつの上がらない営業マンの葛木修哉。
入社3年目の夏、初めて大きな営業成績を残した。
しかし、それは自分の発注ミスが原因だった。
自分のミスを会社に知られたくない修哉は、ミスを隠そうとしますが…。
いきなり後味の悪いお話。笑
人は結局自分のためにしか動くことができない。
主人公目線で読むと緊迫感がありました。
やったことが裏目に出てしまうあたりは特にハラハラします。笑
それでいて、ラストにはとっておきの展開を用意してくれています。
キレイなオチが待っていました。
ありがとう、ばあば
ホテルのバルコニーに閉じ込められたばあば。部屋にいる孫の杏はドアを開けてくれません。
これまで彼女にしてきたことを、ばあばは思い出すのですが…。
最後の一行が強烈な本作。
米澤穂信さんの『儚い羊たちの祝宴』を彷彿とさせるどんでん返しでした。
【感想】どんでん返し好きなら読んでおきたい一冊(米澤穂信『儚い羊たちの祝宴』)回想シーンに張り巡らされた数々の伏線。
そんな部分が重要なヒントになっていたとはと感じざるを得ませんでした。
ラストのどんでん返しはすごく好きでした!
絵の中の男
ある鑑定士のもとに持ち込まれた、浅宮二月の絵。
その絵は贋物だとわかったものの、あることに気付いた鑑定士は、昔話を始めます。
それは、浅宮二月という人間の人生についてでした。
浅宮二月という人間が不気味に描かれている物語。
気味が悪い&怖いお話でした。
強盗によって家族を殺されたことで衝撃的な絵を描けるようになった二月。
結婚後、息子を産んだらスランプに。
しかし、息子の死をきっかけに再び衝撃的な絵を描けるようになります。
ちょっと不思議なテイストで書かれる物語ですが、最後の最後にはちゃんと驚きを用意してくれます。
終わり方もゾッとする作品。
どことなく、意味がわかると怖い話に似ているなと感じました。
『鬼の跫音』に似ている印象でした。
【感想】短編集に迷ったらこれ!6つの奇妙な物語集(道尾秀介『鬼の跫音』)姉のように
志摩菜穂子が起こした三歳の娘を虐待死させたという新聞記事から始まる物語。
姉が事件を起こしたことで、私を見る目が変わってしまいました。
姉のせいで肩身の狭い思いをする私は、娘の育児にだんだん疲れてしまい…。
上手にトリックが仕組んでありました。
ただ、どんでん返しがあるとわかっていると気づきやすいかなと思います。
ただ、ミスリードや仕掛けは幾重にも張られているので読み逃さないようにしてください!
許されようとは思いません
水絵との結婚を考えているが踏ん切りがつかない諒一。
それは、殺人犯の祖母の存在があったからでした。
殺人犯が身内にいるのは嫌なのではないかと考える諒一。
そんなある日、祖母の骨を納めることにした諒一。
水絵と一緒に、祖母が住んでいた桧垣村へ向かうのでした。
徐々に明らかになってくる謎。
少しずつ回収される伏線が素晴らしかったです。
また、タイトルが秀逸!
ラストの終わらせ方含め、とてもまとまっている良いお話でした。
本作唯一のほっこりした感じの終わらせ方でしたね。
また、この物語とリンクしたショートショートが背表紙に入ってますので、最後に読んでみてください!