2022年の本屋大賞にノミネートされた浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』。就活を舞台にした新感覚のミステリとして大きな話題となりました。
2024年の映画化が予定されており、ますます注目がされている作品です。
伏線の多さ、回収の巧みさがとにかくスゴイので、良さについてを語り合いたい一冊でもあります。そこで、読了者限定での読書会を開催しました!
参加いただいたのは私を含めて3名(男性2名、女性1名)。(今回は、過去最高の申込数があったのに対して、参加率がかなり低くて残念でした…)
今回はそのレポートをお届けします。以下、ネタバレが含まれますので未読の方はご注意ください。
最初に読んだ時の感想
まずはこの本を読んだ感想から話をしました。本作はミステリとしての側面が強いものの、人間の二面性についてを描写している作品でもあります。
単行本発売時の帯には6人全員クズというようなフレーズがついていたそうです。読んだ人ならわかると思いますが、秀逸な煽り文ですよね。そして、読む前と後では印象がガラッと変わる。
読了者同士での話が弾みそうな予感がプンプンでした!
なぜ嶌は×を◎に変えたのか?
感想のあとに話に挙がったのは、最後の面接のシーンについてでした。面接官を務めていた嶌は、ある就活生に対して×の評価を下します。しかし、その後、評価を◎に変更しました。
この行動の裏側にはどんな意図があったのか?というものです。
おそらくですが、自分に似ていると感じたために、◎に変更したのだろうというのが、結論でした。
最初に×にした理由は、就活生が嘘を見抜く自信があると断言したためでしょう。
「(前略)ありとあらゆる種類、大小様々な嘘を、ご自身の洞察力で見事に嚙みわける自信は、ありますか」
「あります」
(P.294)
小説内で、嶌は人間の本質を見抜くこと、嘘を見抜くことはできないと考えています。だからこそ、自分にはできると断言している就活生を、傲慢だと判断したのかもしれません。
しかし、その直後、就活生が逆質問をします。
「(前略)ダーツやボードゲームに興じながら会議ができるミーティングルームの存在について、(中略)どのようなタイミングで、どのていの頻度で使用されているのでしょうか?(後略)」
(P.295)
この質問に対しての人事の回答を、就活生は嘘だと見抜くことができませんでした。
彼女は傍目にもわかりやすく舞い上がり、恋に恋する少女の笑顔で、
「貴重なお話、ありがとうございました」
(P.296)
そんな就活生に対して、自分の就活生時代を重ねたのでしょう。だからこそ、嶌は就活生を◎に変更し、これから社会に揉まれながら頑張れと考えるようになったのだと思います。
「ああいう子、知ってるんですよ」
「知ってる?」
「ええ。大丈夫です。色々と辛い出来事にも直面するかもしれませんが、きっと乗り切れる子です。ちゃんと成長できる――いや、違うか」
(中略)
「超越、できる子です」
(P.296)
鴻上の人間性について
続いて話したのが鴻上の人間性について。本作は六人の大学生に目がいきがちですが、彼もなかなかにひどい人のように描かれています。結構クズなことをしています。
グループディスカッションにおいて、告発合戦が始まっているにも関わらず、彼はずっと様子見をしています。しかも、グループディスカッションで内定者を1名に決めるということは、最初から決まっていたような描写がありました。
彼は、内定者が1名となるにも関わらず、嘘の最終課題を伝えていたのです。人生がかかっている学生に対しての対応としては、かなりクズなことではないでしょうか…。
さらに、鴻上は結婚指輪をしきりに気にしている描写がありました。しかし、物語の終盤、彼は離婚しているともとれる描写があります。
「(前略)指輪をする必要がなくなっちゃんです。(後略)」(P.250)
これも人間性が原因だったのではないかなと思う部分がありました。(これに関しては私も二面性を見切れていないのかもしれませんが…)
1番スゴイと感じた伏線
この後には、それぞれから、スゴイ伏線についても話をしました。前提として、本作はクズに見えて実は一面しか見えていなかったという大きなオチがあります。その描き方は上手だなというのは満場一致でした。
そのあとに挙がったのは月に関するお話。人の二面性を月にたとえているシーンです。
月の裏側は表側に比べて起伏が大きく、クレーターの多さが目立つらしい。言ってしまえば、ちょっと不細工なんだそうだ。ある意味でそれはあの封筒の中身にも似ているなと、そんなことを考えた。
(P.263)
実は冒頭にこのシーンの暗示がありました。
「月――地球からは絶対に裏側が見えないって。それを聞いてから、意味もなく考えちゃうんだよね。月の裏側ってどんなふうなんだろうって」
(P.32)
人には裏表があるということは早々から示唆されていたんですよね。さすがだなと思いました。
また、嶌が波多野を好きだったのかどうかという点について。実は嶌は久賀が好きだったのではないかという点も伏線としてあります。
グループディスカッションでの、投票について、波多野の妹はこのように評価しています。
「あんなのほとんど好きな人投票みたいなものじゃないですか。好きだから票を入れちゃうんですよ。(後略)」(P.287)
これに対して嶌は
いやはや、本当に鋭い考察だ。(P.287)
このように言っています。読んでもらうとわかりますが、嶌はすべての投票で九賀に入れているのです。ということは…と考えられますよね。
浅倉秋成さんの他作品は読んだことある?
本作とは少し、話が変わりますが、浅倉秋成さんの作品を読んだことがあるか?についても話をしました。
やはり『俺ではない炎上』は人気ですね。読んでいる人が多い印象を受けました。この作品も、人間の二面性を描いている部分があります。
また、私は『教室が、ひとりになるまで』をご紹介しました。この作品でも人の見え方について考えさせられる部分があります。
そう考えると、浅倉秋成さんは、人についてを書くのが上手な作家さんだと感じました。ここに伏線回収が掛け算されていくので、読者の満足度の高い作品になるのだろうと思いました。
映画化のキャストを予想!
最後には、若干恒例となっていますが、映画のキャスト予想をしました!
波多野:北村匠海
嶌:永野芽郁
九賀:吉沢亮(年齢的に難しい感じもあるけど…爽やかイケメンな人!)
袴田:眞栄田郷敦(少し優しすぎるかもしれませんが…)
矢代:広瀬すず(脇役なので難しい感じもありますが…)
森久保:鈴鹿央士
話していて思いましたが、知っている若い俳優が少なくて全然出てきませんでした笑。キャラクターのイメージ通りにはなっているのではないかと思います!
2024年には映画化が決まっているので、答え合わせも楽しみですね…!
ご参加いただいた皆さんありがとうございました!!!