辻堂ゆめさんの『サクラサク、サクラチル』を紹介します。
「良い大学へ進学をしないといけない」
裕福な家庭に生まれた男子高生は、親からのプレッシャーを受けていた。一方で貧しい環境に生まれ親から搾取をされる生活を送る女子高生。そんな二人が出会い、親への復讐計画を立てるのでした。
「絶対に東大合格しなきゃ許さない」――両親の熱烈な期待に応えるため、高校三年生の高志は勉強漬けの日々を送っていた。そんなある日、クラスメートの星という少女から、自身をとりまく異常な教育環境を「虐待」だと指摘される。そんな星もまた、自身が親からネグレクトを受けていることを打ち明ける。心を共鳴させあう二人はやがて、自分達を追い詰めた親への〈復讐計画〉を始動させることに――。教室で浮いていた彼女と、埋もれていた僕の運命が、大学受験を前に交差する。驚愕の結末と切なさが待ち受ける極上の青春ミステリー。
二人を待ち受けている結末とは一体なにか。ネタバレなしで紹介をしていきます。
親からの虐待を受ける二人の高校生
東大出身のエリートサラリーマンの父と専業主婦の母を両親に持つ高校生の染野高志(そめのたかし)。彼は、親から東大合格を至上命題として与えられていた。そのために、彼の生活は、両親によって過度に縛り付けられているのでした。
そんなある日、高志は、クラスメイトの星愛璃嘉(ほしえりか)から声をかけられる。それは高志が、愛璃嘉と同じ雰囲気をしていたから。
そのことが意味するのは、親から虐待を受けているということでした。自分の生活は普通だと思っていた高志ですが、徐々に異様だったということに気付いていきます。
愛璃嘉は、生活のためにバイトを頑張る日々を送っていますが、そのお金を親にせびられてしまう。そして、親から愛されていない…。
親からの虐待を受けている二人。彼らは、親への復讐計画を立て、実行に向けて策を練り始めるのでした。
異なるタイプの毒親を描いた作品
本作は親からの虐待を受けている男女の高校生の物語です。ただ、虐待と言っても、わかりやすい暴力だけではありません。いわゆる毒親を描いた作品でもあります。
東大合格を必ず成し遂げないといけない高志は、親に生活のすべてを管理されています。勉強時間、睡眠時間、食事など。高志の生活は親のためにあるのでした。そして、少しでも親の気に障ることがあると暴力を振るわれる。
高志の家は、父親のおかげで裕福な生活ができています。高志は、お金の点では困ることなく生きていけます。しかし、それはあくまでも両親の言うことを聞いていればの話です。
一方で、愛璃嘉は母子家庭で貧しい生活を送っています。そのため、彼女がバイトをして生計を立てている状態でした。それにもかかわらず、彼女のバイト代は母親の娯楽へと消えていくのでした。
母親は自分がいないとダメだと思っている愛璃嘉。彼女は高志とは違った形で、親に人生を縛り付けられているのでした。
自分たちの人生を虐げてきた親への反発心に気付いた二人。毒親を持つ高校生の男女は、両親への復讐をしようと動き出すのでした。
予想以上の数の伏線回収が始まる
親との生活に苦痛を感じながらも、二人の高校生は両親への復讐計画を着々と進める。大きな話はこの通りです。
しかし、本作は青春ミステリです。前半から謎が出てきていたり、違和感を持つ描写があったりします。
たとえば、高志は何者かから嫌がらせを受けていることが物語の序盤から描かれています。しかし、彼はクラスでまったく目立っていない話題にも乗らないような人物でした。そんな彼に対して、誰が何のために嫌がらせをしているのか?
このようなわかりやすい謎はもちろんですが、読んでいて少し気になるような違和感がところどころに用意されています。そして、最後に一気に回収されていきます。
後半はページをめくるたびに「そう言えば確かに変だったかも!」「なるほど!それはこういう意味だったのか」などが出てきます。予想していた以上の伏線が露わになります。
最後に明らかになる真実。そして、二人の復讐計画の結末とは。読了後には今とは違った世界を見てみたくなる。不思議な魅力を持った作品のように感じました。