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【感想】就活を舞台にした心理戦…!犯人の正体と目的とは?(浅倉秋成『六人の噓つきな大学生』)

浅倉秋成さんの『六人の噓つきな大学生』を紹介します。就活を舞台にしたミステリで、グループディスカッション中に起こったとんでもない事件を題材にした作品です。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

本屋大賞にもノミネートされた作品。心理戦の先にある事件の背景、そして巧妙な伏線回収がたまらない一冊でした。

ネタバレなしで感想を紹介していきます。

最終選考に残った6人の優秀な学生たち

成長が著しいIT企業・スピラリンクス。初めての新卒採用にはたくさんの大学生からの応募が集まったのだった。そして、最終選考に残ったのは六人。

有名私大に通っている、そして学業以外の活動も熱心な六人が最終選考には残っていたのでした。一般的に優秀だと称される人ばかりです。

そんな、優秀な彼らに課されたのは「最終選考が行われる一ヶ月後までに最高のチームを作り上げて、最終選考のグループディスカッションに臨むこと」でした。

内容次第では、全員に内定が出る。一方でその逆もしかりです。

六人の大学生たちは、全員で内定を勝ち取るために、素晴らしいディスカッションを作り上げるようとするのでした。

一ヶ月の準備期間を経て、仲が深まり、ディスカッションに向けた手ごたえも感じ始めていました。しかし、最終選考を目前に、突如、選考内容の変更が告げられます。

その内容とは「6人の中から内定者に最もふさわしい者を1名選ぶ」というものでした。そして、グループディスカッションで、ある事件が起こるのでした。

心理戦へと変貌したグループディスカッション

ともに内定を得るはずだった仲間だった六人。しかし、選考内容の変更で、内定を争うライバル関係になってしまったのでした。

議論では埒が明かない可能性もある。投票タイムを設けて、六人のそれぞれが内定者にふさわしいと思う者に投票をするという形式で、内定者を決めようとします。

その途中で、事件が起きます。六人それぞれに宛てられた封筒が見つかったのです。そして、その中身は、六人それぞれの悪事を告発するものでした。

「●●は人殺し」「●●は恋人を中絶させ、関係の解消をしている」など、彼らがしてきた倫理的にダメなことの告発が書かれていたのです。

不信感が募る中で、グループディスカッションは進んでいく。

誰が何のためにこんなことをしているのか。そして、最後に内定を手にするのは誰なのか。

伏線の巧妙さがとにかくスゴイ!

本作は2章仕立てになっており、最初の章がここまでで紹介したグループディスカッションの状況が描かれています。

そして、その合間に、内定者とおぼしき誰かが、他の最終選考に残った人へインタビューしている様子も書かれます。その中で、最終選考に残ったメンバーはクズのような言動をしているのでした。

1章の最後に、悪事の告発をしたとされる人物が誰なのか、ある人物だけはわかったと描写されます。明確に書かれてはいませんが、読者にもおそらくわかるようになっています。

そして、2章に話が移ります。ここでは、1章の合間でメンバーにインタビューをしていた人の視点で話が語られていきます。ここからは怒涛の展開が待っています。

犯人の目的が明確になっていったり、他のメンバーに隠されていた真実が判明していったり、伏線回収がとんでもないことになっていました。伏線の張り方が秀逸過ぎるので、心地良さがすごかったです。

二度読みすると、一気に世界が変わるのも素晴らしかった。読んでいる途中と、読んだ後ではまったく印象が変わる。作品のテーマにも通じている部分なので、表現の巧みさにも感服です。

ミステリとしても素晴らしいし、人についてを考える上でも素敵な一冊。まだ読んでいない人には今すぐ読んでほしい。そんな一冊です。