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【感想】殺人事件の犯人を暴いてはいけない…!極限状態を描いたミステリ(夕木春央『十戒』)

十戒-夕木春央

2022年。SNSを中心に話題となり、本屋大賞にノミネートされたミステリ小説・『方舟』

地下施設からの脱出のために、犯人を生贄にしないといけないという特殊な状況下でのミステリでした。そして、衝撃的なラストに度肝を抜かれた人も多かったと思います。

今回は、著者・夕木春央さんの『方舟』出版後、初めての長編を紹介します。(『方舟』の続編ではありません)

タイトルは『十戒』です。

殺人犯を見つけてはならない。それが、わたしたちに課された戒律だった。浪人中の里英は、父と共に、伯父が所有していた枝内島を訪れた。島内にリゾート施設を開業するため集まった9人の関係者たち。島の視察を終えた翌朝、不動産会社の社員が殺され、そして、十の戒律が書かれた紙片が落ちていた。“この島にいる間、殺人犯が誰か知ろうとしてはならない。守られなかった場合、島内の爆弾の起爆装置が作動し、全員の命が失われる”。犯人が下す神罰を恐れながら、「十戒」に従う3日間が始まったーー。

本作もミステリのお約束ではあり得ない状況を描いたミステリ小説となっていました。

ネタバレなしで内容の紹介をしていきます。

島に閉じ込められた九人の男女

本作の舞台は枝内島(えだうちじま)という無人島です。

主人公は美大に受からず浪人を続けている・里英(りえ)という女性。彼女の伯父が交通事故で亡くなってしまうのでした。枝内島は、その伯父が所有している島でした。

伯父の死から数日後、枝内島をリゾート施設にしようという話が浮上します。リゾート施設化を進めるために、里英と父、不動産会社の人間など、九人の男女が枝内島へ向かうことになるのでした。

しかし、島には変なところがありました。枝内島には、長年の間、誰も行っていないはずなのに、なぜか人がいた形跡がありました。さらに、島からは爆弾が見つかるのでした。

不穏な雰囲気の中、初日は過ぎ去っていきます。そして、翌日。ある人が殺された状態で発見されるのでした。

犯人を探してはいけないミステリ

『方舟』と同じく、本作も特殊な状況下にあるミステリです。特殊な状況とは、犯人を探してはいけないということです。殺人事件が起きた朝。犯人から10個のルールを守れという書き置きが残されていました。

内容を要約すると下記のようになります。

1.三日間は島の外に出てはいけない。

2.島の外に、殺人のことや島の状況を伝えていけない。もちろん、警察への通報もダメ。

3.迎えの船は三日後の夜明け以降に延期してもらうこと。身内や関係者に怪しまれないように、帰宅が延期することを伝えないといけない。

4.通信機器を持ってるのはダメ。スマホは容器に回収して、みんなの前で使わないといけない。

5.島の外への連絡は互いの監視がある状態以外は禁止。

6.複数人が30分以上同じ場所に居続けるのはダメ。30分ごとに5分間は一人で過ごさないといけない。

7.島の様子をカメラで撮影したり、レコーダーで録音したりすることは禁止。

8.寝室は一人につき一部屋としないといけない。他の人の部屋を訪ねる時はノックをしないといけない。

9.島からの脱出や、これらの指示を無視してはいけない。

10.殺人犯が誰なのかを知ろうとしてはいけない。正体を明かそうとすることや犯人の告発はNG。

そして、ルールを破ると爆弾によって島を爆破するという但し書きがありました。ミステリなのに、犯人を探してはいけないという状況に置かれるのでした。

このルールによって、島にいる人たちは犯人の支配下に置かれてしまった。犯人は神のような存在になっているのです。そのため、島にいる人たちは神からの啓示・十の戒律。十戒と言い始めるのでした。

通常、積極的に犯人を探そうとするのがミステリでしょう。

しかし、本作では、犯人を見つけようとすると自分が死んでしまう。もっと言うと、犯人が事件を起こしたとしても、見て見ぬふりをしないといけないのです。

誰かが殺されそうな状況にいても、それを救うことはできない。なぜなら、助けようとしたら、殺されそうな人も含めた全員が死ぬことになるから。

こうした問いかけが本作にもあり、『方舟』と同じようにトロッコ問題の要素を感じました。

最後に待っているのはゾッとするどんでん返し

犯人探しをしてはいけない状況で、どうやって話が進んでいくのか。犯人にバレないように推理をしていく様子は、少し緊張感もあって楽しめました。

また、本作の殺人事件は一度では終わりません。連続殺人の中で新たな謎も提示されていきます。

犯人は誰なのか。そして、何のためにこんなことをしているのか。最後にはゾッとするような展開が待ち構えていました。なんとなく予想している部分はあったものの、想像を超える真実がそこにはありました。

この展開ならば、二度読み必至です。二度読みしたら、きっと最初とは印象がまったく変わるんだろうなと思います。(まったくジャンルは違いますが、某ホラーミステリと似たものを感じました)

ある人の推理によって明らかになった犯人の正体と事件の真相。そして、急な展開を見せるストーリー。少し無理矢理に感じた部分はあったものの、『方舟』を面白いと感じた人ならきっと楽しめるはずです!