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【感想】何が本当で何が幻なのか?読み終わってもわからない不思議な短編集(夢野久作『瓶詰の地獄』)

『ドグラ・マグラ』が有名な夢野久作さん。精神に支障をきたすとも言われている奇書とも言われる作品です。

しかし、あまりの長さから『ドグラ・マグラ』には手が伸びない…という人もいるかもしれません。今回はそんな方におすすめの一冊を紹介します。

それが『瓶詰の地獄』です。

極楽鳥が舞い、ヤシやパイナップルが生い繁る、南国の離れ小島。だが、海難事故により流れ着いた可愛らしい二人の兄妹が、この楽園で、世にも戦慄すべき地獄に出会ったとは誰が想像したであろう。それは、今となっては、彼らが海に流した三つの瓶に納められていたこの紙片からしかうかがい知ることは出来ない…(『瓶詰の地獄』)。読者を幻魔境へと誘う夢野久作の世界。「死後の恋」など表題作他6編を収録。(「BOOK」データベースより)

実は短編でもかなり濃厚で幻想的な作品を堪能できます。今回は収録されている7作品のあらすじをネタバレなしでご紹介します!

瓶詰の地獄

海洋研究所から町役場に届いた3つの手紙。それぞれが異なる瓶の中におさめられていて、漂着しているのが見つかったというのでした。そこには、無人島に流れ着いてしまった兄妹の様子が綴られていました。

読み終えた時に、これはどういう意味なんだ?と感じずにはいられませんでした。それと同時に、これが夢野久作の魅力なのかとわかると思います。

感情が揺れ動く描写のリアルさも良いのですが、それ以上に話を読み終えたはずなのに、話の全容が読めない感じがたまりませんでした。

人の顔

孤児のチエコには奇妙なクセがありました。それは、空や天井などに人の顔を見てしまうというものです。あそこに●●が見えるという、変わっているかつ怖いことを言うチエコと、母親のお話を描いた短編です。

読後には、ホラーなのか?コメディなのか?という真逆な感想を抱きました。

いまだに自分は何を感じたのかわかりませんでした。面白さもありつつも恐ろしさもある不思議な感覚を味わえます。

死後の恋

ロシア人のコルニコルは、日本の軍人に話しかけます。彼はどうしても「死後の恋」というものを認めてもらいたいのだと言います。彼はリトヤニコフという美少年との話を語り出すのですが…。

ちょっとしたどんでん返しがあるだけではなく、最後のオチが印象的な一編です。正直、読み終えても意味がわからないと思います。

というより、あなたがどう感じたかを決めるという完全なリドルストーリーです。

志那米の袋

ロシア人の踊り子ワーニャは、ひいきにしている日本人の軍人に対して「あんまりにもあんたが可愛いから殺してしまいたい」と言い放つ。突然の発言に彼が意味を尋ねると、ワーニャは過去のある話をしだすのだった…。

狂気という意味では最も恐ろしかった作品です。途中まではちょっとしたハードボイルドのような、ドキドキや臨場感を味わえる。そして、最後にはゾッとするような狂気を感じられる物語になっていました。

鉄鎚

父を亡くした「私」。父はずっと叔父のことを悪魔だと称していました。そんな悪魔である叔父と生活を共にすることになってしまった「私」。こき使われながらも、叔父との生活をうまく活用していくのですが…。

人の闇についてを描いている作品。誰もが裏の顔を持っているということを丁寧に描いていると思います。

これまでも、こうした作品は読んできましたが、短編のはずなのに重厚な物語と、意味を考えさせられるオチが魅力でした。

一足お先に

肉腫で足を主人公は、毎晩のように悪夢に魘されているのでした。そして、足を失った人がよくしてしまう行動という話を、病院の人間から聞くことになるのですが…。

何が本当で何が夢の話だったのかがわからなくなる物語。

『ドグラ・マグラ』と通じるところがある話と言われることが多々ありますが、「なるほど」と感じました。結局何がなんだったのかわからないまま終わる。幻想小説の良さが出ている作品です。

冗談に殺す

女優と出会った主人公の「私」でしたが、彼女は動物虐待をするなど変わった性癖を持っていました。そんな彼女に嫌気が差した「私」は、彼女を完全犯罪で殺そうとするのですが…。

正義感から走った行動が、最後には伏線にもなっているように感じました。(完全な描写はないのであくまで想定ですが)

オチがかなり上手に描かれているので、読後の余韻がどっしりと来る物語でした。