五条紀夫『クローズドサスペンスヘブン』を紹介します。新潮ミステリー大賞最終候補に残った本作。かなり斬新な設定のミステリで新しさがすごかったです。
俺は、間違いなく殺された――。なのに、ここはどこだ? 気がついたら目の前にはリゾートビーチと西洋館。姿の見えない配達人から毎朝届く不思議な新聞によると、ここは天国屋敷で、現世で惨殺された6人が記憶をなくした状態で天国に返り咲いたらしい。俺は、誰だ? なぜ、誰に殺された⁉ 館ものクローズドサークルに新風を吹き込む、“全員もう死んでる”系ミステリー、爆誕。
これまでに数多くの館ミステリ、クローズドサークルミステリが世に出てきました。しかし、本作の斬新さはそれまでの比ではないでしょう。ネタバレなしで紹介をしたいと思います!
登場人物が全員死んでる!?
まず、本作は特殊設定ミステリと呼ばれるジャンルでしょう。しかし、本作の魅力はその設定の斬新さにあります。なんと舞台は天国なのです。登場人物は全員が死んでいるという状態から物語がスタートします。
天国にいるのは6人の男女。彼らは全員、自分は殺されたという記憶を保持している。しかし、殺された時の状況や底に至るまでの経緯、ましてや自分の名前すら覚えていないという状況でした。
自分たちはなぜ殺されたのか。それを知ることで、自分たちは成仏ができるのではないか?
その目的を達成するために、6人は事件の捜査を始めることになる。なんと、天国には自分たちが殺されたとされる館がそのままあったのでした。
はたして犯人の正体は。そして、動機や登場人物たちの生前どんな人たちだったのか?
作品が美しい…
ここまでで説明したミステリとしての魅力があることはもちろんなのですが、本作は全体的に心地よい物語です。まずは装丁。うまく表現するのが難しいですが、オシャレではないでしょうか。色合いやタイトルの描かれ方など、印象的な見た目になっていると思います。
作品内でも同じように感じます。物語の面白さはそうなんですが、文体も軽やかで一気に引き込まれてしまいます。基本的にシリアスな展開ですが、ところどころでコメディタッチな部分もあります。そして、気づいたら作品に没頭してしまっている。
そして、ラスト。ネタバレになってしまうので詳細は書きませんが、美しい幕引きが待ち構えています。シリアスな話をここまでキレイに昇華させるのは素晴らしいな感じました。
犯人の正体や動機まで面白い
6人の男女はなぜ殺されたのか。おそらく犯人も死んでいる状況。犯人は自殺をしているということになるが、何が凶行に走らせてしまったのか。
徐々に明らかになっていくキャラクターたちの過去。そして、犯人の正体と事件の背景。伏線とオチが効いていて、衝撃も素晴らしい一冊でした。斬新な特殊設定という枠をうまく使った、読み応え十分の作品です。
また、悲しく儚い物語ではあるものの、先ほども書いたとおり、どこか美しさもあるミステリでした。事件の真相がわかった後も楽しめる。特殊設定ミステリが好きなら絶対に読んでほしい物語でした!