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【感想】学生の淡くて切ない連作短編!犬が過ごした12年間(伊吹有喜『犬がいた季節』)

犬がいた季節

2021年本屋大賞ノミネート作品、伊吹有喜『犬がいた季節』を紹介します。犬のコーシローが高校で過ごした12年間と、その20年後を描いた物語。6つの年代を切り取った連作短編集になっています。

ある日、高校に迷い込んだ子犬。生徒と学校生活を送ってゆくなかで、その瞳に映ったものとは―。最後の共通一次。自分の全力をぶつけようと決心する。18の本気。鈴鹿でアイルトン・セナの激走に心通わせる二人。18の友情。阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件を通し、進路の舵を切る。18の決意。スピッツ「スカーレット」を胸に、新たな世界へ。18の出発。ノストラダムスの大予言。世界が滅亡するなら、先生はどうする?18の恋…12年間、高校で暮らした犬、コーシローが触れた18歳の想い―。昭和から平成、そして令和へ。いつの時代も変わらぬ青春のきらめきや切なさを描いた、著者最高傑作!(「BOOKデータベース」より)

三重県の進学校、八稜高校に迷い込んだ子犬のコーシロー。彼の視点から見えている高校生活と、学生同士の友情や淡い恋愛。学生時代を思い返したくなる、そんな物語が詰まっていました。

犬だからわかる気持ち

本作は6つの短編が収録されている連作短編集です。八稜高校での12年間を舞台に、移り行く時代と生徒たちの生活が描かれていました。

どの物語でも、冒頭と最後に犬のコーシロー視点で話が語られます。この独白ような語りが、どこかほのぼのしますし、人間とは違った視点での話なので、新鮮でした。

人の言葉を理解できるコーシロー。自分に語りかけられたことに対して、尻尾を振ったり、軽く吠えたりなど、コミュニケーションを取ろうとします。また、匂いから、その人が何を考えているのかという心境の変化を読み取れてもいました。

片想い同士の人をつなげようときっかけを作ったり、全く違う話が紡がれていることに対して抗議に吠えたり。こうした言語が通じないからこそのコミュニケーションも本作の魅力でしょう。

時代背景がリアル

1988年から2000年までの学生生活を描いた本作。その時代に何が起こっていたのかをリアルに表現しています。

1988年の物語では、手紙で相手と連絡を取り合おうとする様子が見られました。スマホがない時代だからこその意思疎通の様子が伝わってきます。また、1995年の物語では、阪神淡路大震災が作中での大きな出来事として描かれていました。

その時代に何が流行っていたのか、どのような歴史があった時代だったのか。背景も含めての短編だったので、自分もその時代にタイムスリップしたかのように肌で感じられます。

懐かしさ満載の青春小説

どの短編でも主人公は17,18歳の高校生。しかし、彼らは高校を卒業していったら、戻ってくることがほとんどない。

卒業して去っていくという寂しさが、コーシローの視点で語られる様子からヒシヒシと伝わってきました。過去の短編が後の話に繋がっていくので、寂しさを晴らしてくれる、ちょっとした嬉しさもあります。

最後の章では2019年を舞台に、八稜高校の創立100周年の祝典の様子が描かれています。1988年の卒業生はもう48歳。各年代の短編で登場した卒業生たちが各々に懐かしむ様子が伺えました。

読めば学生時代の自分を振り返れること間違いなし。私の場合、今は多少大人になれているなと実感できました。人生をどうするかの岐路に立たされているともいえる18歳。読んだら懐かしさに満たされることと思います。