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【感想】幸せだけが人生じゃない!勇気をもらえる恋愛小説(山本文緒『自転しながら公転する』)

自転しながら公転する

2021年本屋大賞ノミネート作品、山本文緒『自転しながら公転する』を紹介します。楽しくない毎日を過ごしていた32歳の女性・都と、回転寿司屋で働く30歳の男性・貫一との物語。

東京で働いていた32歳の都は、親の看病のために実家に戻り、近所のモールで働き始めるが…。恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなの無理!誰もが心揺さぶられる、7年ぶりの傑作小説。(「BOOKデータベース」より)

恋愛小説でありながら、仕事や私生活への励みにもなる一冊。思い悩まなくても良いと思える気持ちになれました。

最悪な二人の出会い

茨城のアウトレットモールにある、アパレルショップで働く都。ある日、ちょっとしたフラストレーションが溜まっていたことが原因で、回転寿司屋の態度の悪い店員に注意をします。

その日、都は車が止まってしまい家に帰れずにいました。そこで助けてくれたのが、先ほどの店員・貫一でした。

このことがきっかけで、ふたりは距離を縮めます。最悪な出会いだったふたりは、親密な関係へとなるのでした。

最初こそ楽しい時間が続きますが、徐々に溝も生まれてくるふたり。貫一は中卒で、仕事も決して安定したものではありませんでした。周囲の幸せに目をやると、自分はダメなのではないかと感じてしまう都。

そんなふたりの不完全で、不安定な恋愛物語です。

恋愛以外の要素も多い

本作の主題は、都と貫一の関係を描いた恋愛小説です。アパレルショップの契約社員である都は、母の介護を理由に実家へ戻ってきました。

しかし、彼女は仕事が上手くいっておらず、辞める口実が欲しい時期でもありました。社員の肩書を捨てた結果、現在の状況になっているのです。

そして、職場ではセクハラに悩まされたり、上司・同僚とうまくいかなかったり、思うようにことが運びません。そんな状況にも悶々とする都。周囲を見れば結婚している友人、仕事も恋愛も順調な後輩がいます。

頑張っているのに報われない。都は、周りの幸せを羨ましく感じるのでした。そして、自分はどうして頑張っているのかを考えてしまいます。

貫一との恋愛要素だけではなく、こうした人生における悩みも丁寧に描かれている本作。教訓も多々ある小説でした。

人生に勇気をもらえる一冊

ツラい境遇にいることが多い都ですが、少しずつ自分だけが不幸ではないことを知っていきます。幸せに見えることも、表面的なものでしかない。

作品の最後には、都が人生について語るシーンがあります。

「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」

様々な経験で学んだことがこの一文には表れていました。これだけでも、前向きになれる言葉です。

また、本作はプロローグとエピローグが物語の間に挟まっています。プロローグで描かれているのは、ベトナムでの結婚式の様子。作品がどのような終わりを迎えるのか、わかるようになっているのです。

しかし、エピローグでちょっとした驚きがありました。そこは期待していなかったので、少しビックリしました。

約480ページと少し長めの作品ではありますが、読み終えた頃には、自身の幸せとは何かを考えられるようになっているはずです。