2023年も上半期が終わってしまいました。この上半期に私が読んだ小説は63冊でした。
ミステリに限らず様々なジャンルの本にも手を出してみましたが、気が付けばミステリを買っていることが多かったです。なんだかんだ落ち着くのはミステリのようです笑。
今回は、2023年に読んだ小説の中で特に面白かった小説TOP10を紹介します。ひとことと一緒に紹介するので、気になる本があったら是非買ってみてください!
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10位.浅倉秋成『フラッガーの方程式』
「物語の主人公になって、劇的な人生を送りませんか?」平凡な高校生・涼一は、日常をドラマに変える《フラッガーシステム》のモニターになる。意中の同級生佐藤さんと仲良くなりたかっただけなのに、生活は激変!ツンデレお嬢様とのラブコメ展開、さらには魔術師になって悪の組織と対決!?佐藤さんとのロマンスはどこへやら、システムは「ある意味」感動的な結末へと暴走をはじめる!伏線がたぐり寄せる奇跡の青春ストーリー。
伏線の狙撃手が描く、ラブコメディー小説。フラッガーシステムによって、ご都合主義の生活を過ごすことになった高校生の涼一。
彼は気になるクラスメイトの佐藤さんとのラブロマンスを期待するが、他の女子キャラとのイベントが発生してしまう。涼一は自分が望む展開を得られることはできるのか…?
基本的にはコメディ調で描かれる物語です。涼一がご都合主義で進んでいくことにツッコミをいれたり、あまりにも有り得ない事象に笑ってしまったり、面白おかしく展開してきます。
フラッガーというタイトルの通り、伏線回収をガンガンしながら話は進んでいきます。そして、最後には大きな伏線回収の仕掛けもあって、作者の頭の中はどうなっているんだろう…。と思ってしまいました。
9位.ダン・ブラウン『ダ・ヴィンチ・コード』
ルーヴル美術館のソニエール館長が異様な死体で発見された。死体はグランド・ギャラリーに、ダ・ヴィンチの最も有名な素描“ウィトルウィウス的人体図”を模した形で横たわっていた。殺害当夜、館長と会う約束をしていたハーヴァード大学教授ラングドンは、警察より捜査協力を求められる。現場に駆けつけた館長の孫娘で暗号解読官であるソフィーは、一目で祖父が自分にしか分からない暗号を残していることに気付く…。(「BOOK」データベースより)
美術館で見つかった異様な死体。ルーブル美術館の館長はダ・ヴィンチの有名な作品を模した格好で殺されていたのでした。
彼と会う約束をしていた、大学教授のラングドンは容疑者として警察に追われることになってしまいます。無実のラングドンは、館長の孫娘のソフィーと一緒に、事件の真相を探っていくという物語です。
ダ・ヴィンチの絵をもとにしたミステリとなっていて、謎解きに次ぐ謎解きが止まりませんでした。「そんなところにも謎が隠されていたなんて…」となり上中下巻の長さですが飽きません。
私はあまり通じていないのですが、宗教や歴史について詳しい人が読んだらより楽しめるかもと思いました。
8位.井上真偽『ベーシックインカムの祈り』
「ふくくんはなおとさんがきらい」。園児の書いた文章を読んだエレナ先生は、その真の意味を分析して……(「言の葉の子ら」)。教授は私に問うた。なぜ、執筆している短編集のテーマに「ベーシックインカム」を選ばなかったのか、と。私は不審を抱いていたのだ。制度ではなく、教授に(表題作)。近未来に実現可能な技術を描きつつ、本格ミステリの醍醐味を存分に感じさせる全五編。
5つの短編が収録されている作品です。どの作品も、近未来を舞台にしていて、技術が進んで世界ならありそうという設定でした。Netflixで見れる、ブラック・ミラーに近いものを感じました。
ただ単に、近未来を描いているのではなく、謎解き要素があります。例えば、こんなお話がありました。
目の見えない娘のために行動する父でしたが、どこか不思議な点がある。果たして彼の目的とは何か?
近未来のある設定をふまえた上でのミステリとなっているので、特殊設定に近い部分があるかもしれません。
ただ、ちゃんと納得のできるオチが待っているので、『その可能性はすでに考えた』に近いところもあるかなと感じました。
7位.夢野久作『瓶詰の地獄』
極楽鳥が舞い、ヤシやパイナップルが生い繁る、南国の離れ小島。だが、海難事故により流れ着いた可愛らしい二人の兄妹が、この楽園で、世にも戦慄すべき地獄に出会ったとは誰が想像したであろう。それは、今となっては、彼らが海に流した三つの瓶に納められていたこの紙片からしかうかがい知ることは出来ない…(『瓶詰の地獄』)。読者を幻魔境へと誘う夢野久作の世界。「死後の恋」など表題作他6編を収録。(「BOOK」データベースより)
読み終えた時に、これはどういう意味なんだ?という感想を持ってしまう作品ばかりでした。夢野久作さんの作品は初めて読んだのですが、これが夢野久作の魅力なのかとなりました。
特に表題作の「瓶詰の地獄」は感情が揺れ動く描写のリアルさが良いです。また、それ以上に話を読み終えたはずなのに、話の全容が読めない感じがたまりませんでした。
個人的には「一足お先に」が特に好きで、何が現実で、何が夢だったのか?わからなくなってしまいます。奇妙な雰囲気を楽しめるし、届きそうで届かない不気味な感覚がクセになってしまいました。
6位.中島らも『今夜、すべてのバーで』
「この調子で飲み続けたら、死にますよ、あなた」。それでも酒を断てず、緊急入院するはめになる小島容。ユニークな患者たち、シラフで現実と対峙する憂鬱、親友の妹が繰り出す激励の往復パンチ。実体験をベースに生と死のはざまで揺らぐ人々を描いた、すべての酒飲みに捧ぐアル中小説。第13回吉川英治文学新人賞受賞作。
アルコール依存症の主人公。同じように入院をしている人たちとのやりとりや、入院患者たちの人生、そして主人公の人生を丁寧に描いている一冊でした。
アル中の人の話なので、共感はできないだろうなと思っていましたが、案の定共感はできませんでした。
しかし、どのキャラクターにも人間臭さがあって、人生についてを考えさせられる局面が多かったです。人生は楽しんだもの勝ちだなと思える素敵な物語でした。
5位.辻堂ゆめ『答えは市役所3階に~2020心の相談室~』
コロナ禍がもたらした、幾つもの「こんなはずじゃなかった」。市役所に開設された「2020こころの相談室」に持ち込まれるのは、切実な悩みと誰かに気づいてもらいたい想い、そして、誰にも知られたくない秘密。あなたなりの答えを見つけられるよう、二人のカウンセラーが推理します。最注目の気鋭がストレスフルな現代に贈る、あたたかなミステリー。
5つの短編が収録されている連作短編集です。コロナ禍で起こってしまった「こんなはずじゃなかった」という出来事。
そのせいで居心地の悪さを感じている、吐き出せない悩みを抱えている人がたくさんいた。そんな人たちのために開設されたのがこころの相談室でした。
ここへ持ち込まれた悩みから始まる、日常の謎のようなミステリとなっています。
辻堂さんの作品ならではの心が温まる心地良さが待っています。もちろん、ミステリとしての構成もキレイで、各短編の推理には「なるほど」となる納得感がありました。
ただの人間ドラマではない、素晴らしいミステリでした。
4位.五十嵐律人『法廷遊戯』
法律家を目指す学生・久我清義と織本美鈴。ある日を境に、二人の「過去」を知る何者かによる嫌がらせが相次ぐ。これは復讐なのか。秀才の同級生・結城馨の助言で事件は解決すると思いきや、予想外の「死」が訪れる――。ミステリー界の話題をさらった、第62回メフィスト賞受賞作。
ロースクールに通っている3人の学生たちを描いた2部構成の物語。1部は学生時代の物語で、2部は法廷が舞台となっています。物語では1部の最後にとんでもない事件が起きてしまうのでした…。
法律ミステリなので難しそうかなと思いきや、わかりやすい説明をしてくれるので、知識がなくても問題ありませんでした。その上で、伏線にも使ってくるので、びっくりです。
特に、後半は伏線回収が止まらない素晴らしいミステリでした。真相が明らかになるシーンは、あまりにも予想外過ぎました。物語は二転三転していたのですが、最後の衝撃はかなり強烈でした。
3位.梶龍雄『清里高原殺人別荘』
冬、シーズンオフの別荘地・清里──〝内側から開かない窓〟を設えた奇妙な別荘に、五人の男女が忍び込んだ。彼らがある連絡を待って四日間潜むその隠れ家には、意外な先客が。密室での刺殺、毒殺、そして撲殺……相次ぐ死によって狂い始めた歯車。館に潜む殺人鬼の仕業か? 逆転に次ぐ逆転! 伏線の魔術師・カジタツが巧緻の限りを尽くした極上の「雪の山荘」ミステリ。待望の初文庫化!
ある理由があって無人の別荘に忍び込むことになった五人の男女。四日間の滞在を予定していたが、なぜか先客がいた。そして、その日に殺人事件が起こってしまう…。
読者からすると、そもそもなぜ彼らは無人の別荘に忍び込んでいるのかがわかりません。そして、そこにいた先客の正体もわかりません。そこへ殺人事件が起こるという、謎だらけの展開で話が進んでいきます。
殺人事件の犯人だけではなく、その他の謎の答えでも驚きが多かったです。予想を上回るというか、予想していなかったことが起こりまくってビックリしっぱなしでした。
2位.呉勝浩『爆弾』
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。警察は爆発を止めることができるのか。爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
爆弾を仕掛けた犯人・スズキタゴサクと警察官との心理戦。取調室で起こる緊迫したやり取りにはドキドキが止まりませんでした。彼の目的とは一体なんだったのか?
いわゆる警察小説と呼ばれるジャンルのミステリだと思いますが、息をつくことを忘れてしまうほどの緊迫感があります。
二転三転する展開も待っていて、きれいなオチにも繋がっていきます。伏線回収がここまでキレイだとは思っておらず、後半は圧巻でした。ミステリ二冠の作品とは知っていましたが、恐れ入りました。
警察小説は普段手に取らない私でも、のめりこんでしまうくらいに飽きない、面白い素晴らしい一冊でした。
1位.凪良ゆう『汝、星のごとく』
風光明媚な瀬戸内の島に育った高校生の暁海(あきみ)と、自由奔放な母の恋愛に振り回され島に転校してきた櫂(かい)。ともに心に孤独と欠落を抱えた二人は、惹かれ合い、すれ違い、そして成長していく。生きることの自由さと不自由さを描き続けてきた著者が紡ぐ、ひとつではない愛の物語。
島で育った2人の男女。彼らは、周囲の大人たちのせいで重荷を背負って生きなければならないのでした。そんな2人の高校生から大人になってからの物語。内容は決して明るいものではありません。
高校時代の出会いから始まり、大人になってからはすれ違いや孤独を感じる二人。時には人生に絶望してしまうようなことも起きてしまいます。途中は読み進めるのがツラくなってしまいました。
しかし、嫌な読後感が残るわけではありません。ハッピーエンドではないです。息苦しさを感じる展開なのは間違いないのですが、どこか心地良さを感じられる締めくくりになっています。
読み終わった時に感じた気持ちは何だったのか。いろいろな人と話をしてみたくなる。独特な気分になってしまいました。