一口にどんでん返しと言っても様々なパターンがあります。
小説ならではの叙述トリックや倒叙ものでの驚き。
『十角館の殺人』や『葉桜の季節に君を想うということ』は名前が挙がる小説でしょう。
【感想】たった1行で世界がひっくり返る(綾辻行人『十角館の殺人』)これらとは少し趣向が異なるどんでん返し小説を紹介します。
西澤保彦『七回死んだ男』です。
どうしても殺人が防げない!?不思議な時間の「反復落し穴」で、甦る度に、また殺されてしまう。渕上零治郎老人―。
「落し穴」を唯一人認識できる孫の久太郎少年は、祖父を救うためにあらゆる手を尽くす。孤軍奮闘の末、少年探偵が思いついた解決策とは。(「BOOK」データベースより)
本作はSF要素を含んだミステリになっていて、設定ありきでの驚きを用意してくれる作品です。
特異体質を持った高校生
本作の主人公、大庭久太郎は特異体質を持つ高校生。
それは、ある特定の一日を九回繰り返ししてしまうというもの。
本人は「反復落とし穴」と呼んでいます。
「反復落とし穴」に規則性はなく、いつも急にやってきます。
多ければ月に十数回落ちることもあれば、二か月に一回という時もある。
0時を過ぎて、前日と同じ日がスタートしていて初めて「反復落とし穴」に落ちたことを知るのである。
この設定が本作ではとても大事になっています。
なぜなら、「反復落とし穴」に落ちた日にある殺人事件に巻き込まれてしまうからです。
正月の親戚の集まりで事件は起こる
舞台は久太郎の祖父、渕上零治郎の家。
久太郎の母・加実寿と妹の葉流名は、祖父の遺産を狙って毎年正月に訪れているのであった。
跡取り候補は7人。
加実寿の息子、大庭久太郎と次男の世史夫と長男の富士高。
葉流名の娘、舞とルナの姉妹。
零治郎の家に努めている槌矢龍一と友理絵美。
加実寿と葉流名は子供を跡継ぎにさせるべく躍起になるのでした。
しかし、この正月の零治郎宅で事件は起こるのです。
死ななかったはずの零治郎が死ぬ
跡取り争いには興味がない久太郎。
祖父の零治郎と酒盛りをして、とんでもなく酔っぱらってしまいます。
泥酔状態の中、家へ帰る車で眠りにつきます。
しかし、目を覚ますとそこは零治郎の家。
どうやら「反復落とし穴」にハマってしまったようなのです。
再び、泥酔状態になる苦しみを味わうのが嫌な久太郎。
2周目では、酒盛りを避けようと動きます。
しかし、酒盛りをしないと零治郎が殺されてしまうのでした…。
零治郎の死を防ぐために奔走!
酒盛りはしたくないが、零治郎が死ぬのは避けたい。
久太郎は何とかして、事件を防ごうとします。
まず、2周目で犯人だった人を零治郎から遠ざけます。
すると別の人が零治郎を殺害していて…。
次の周でその人を確保しておくと、また別の人が…。
果たして、久太郎は零治郎の死を防ぐことができるのか?
SFミステリならではのどんでん返し
9周目までのうちに零治郎を救えるのか?
そして、なぜみんな零治郎を殺そうとするのか?
ミステリとしてもとても面白い作品です。
また、タイトルや表紙からして固い印象を受けますが、まったくそんなことはありません。
むしろ、ライトな語り口調で進んでいくので、読みやすい部類でしょう。
そして、最後の最後に待ち構えている、怒涛のネタバラシの連続。
「反復落とし穴」という特殊体質をうまく利用した仕掛けがそこかしこに張り巡らされていました。
結構ヒントもあったはずなのですが、すっかり騙されました。
複雑に絡み合った結末でしたが、わかりやすく説明されているので、意味がわからないとはなりません。
一味違ったどんでん返しミステリ。ぜひ堪能してください!