たかひでの本棚
個性豊かな登場人物と、彼らが織り成す独特な会話。
そして、テンポの良い作品構成に定評がある作家、伊坂幸太郎さん。
数々の作品が映像化されており、名前だけは聞いたことがある人もいることでしょう。
長編作品が多いので、小説に読み慣れていない人にはハードルが高そうに思えるかもしれません。
しかし、読者を引き込む独特なリズムと、先が気になるストーリー展開のおかげで、読んでみるとあっという間に終わってしまいます。
小説初心者でも親しみやすい物語が多いです。
【感想】どんでん返しがエグイ！伊坂初心者にオススメの小説（伊坂幸太郎『アヒルと鴨のコインロッカー』）
今回は、そんな伊坂さんのデビュー作について紹介します。
『オーデュボンの祈り』です。
コンビニ強盗に失敗し逃走していた伊藤は、気付くと見知らぬ島にいた。
江戸以来外界から遮断されている“荻島”には、妙な人間ばかりが住んでいた。
嘘しか言わない画家、「島の法律として」殺人を許された男、人語を操り「未来が見える」カカシ。次の日カカシが殺される。無残にもバラバラにされ、頭を持ち去られて。
未来を見通せるはずのカカシは、なぜ自分の死を阻止出来なかったのか?
卓越したイメージ喚起力、洒脱な会話、気の利いた警句、抑えようのない才気がほとばしる!
第五回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞した伝説のデビュー作、待望の文庫化。（「BOOK」データベースより）
未来予知できる案山子はなぜ殺された？
ひょんなことからコンビニ強盗をしてしまった伊藤。
仙台で警察から逃げているうちに、気が付いたら荻島という島に来ていた。
ここは、江戸時代以来、外界との関係を一切なくした島だった。
そこにあったのは、特殊なルールで運営されている人間関係と不思議な案山子があった。
外との行き来を許された唯一の男、轟。
人を殺しても咎められない、桜。
妻を殺されて以来、逆さ言葉しか話せなくなった園山。
そして、人の言葉を話せて、未来が見る案山子の優午。
仙台に戻ったら警察に捕まってしまう。
身を隠すことにした伊藤は、異質な島で生活をすることになったのだった。
しかし、伊藤が島に来た翌日。優午がバラバラになって殺されていた。
未来が見えるはずの案山子は、なぜ死ぬことがわからなかったのか？
個性が強すぎる登場人物たち
伊坂作品の魅力は2つあります。
1つが登場人物の癖の強さです。笑
メインキャラクターの伊藤。
気が弱く、まっとうな人生を送ってきたのですが、ちょっとしたことがきっかけでコンビニ強盗をしまいます。
ここまでの経歴を見ると、普通の物語なら焦点が当たりそうな登場人物でしょう。
しかし、他のキャラクターの個性が強すぎるので、霞んで見えてしまいます。
まずは警察官の城山。伊藤の元同級生で、残虐な性格をしていると描写されていました。
幼いころから動物虐待や人を傷つけることに抵抗がない。
しかも誰にもバレないように行うから手に負えません。
そんな彼は警察官なので、権力を盾に様々な悪さをします。
読んでいて思いますが、本当に嫌な奴です。バツが下ってほしいととても思いました。笑
未来が見える案山子の優午。
人の言葉がわかって話せる時点で少し変わった案山子ですが、それだけではありません。
彼は未来が見えます。伊藤が島にやってくることも予想していました。
それなのになぜ、案山子は殺されることを予知できなかったのか？
これが本作の大きな謎になっています。
そして、島で殺人を許されている男・桜。彼は島のルールです。
弟をいじめていた兄、妻に暴力を振るっている税理士など、影で悪さをしているものは、桜によって射殺されました。
許しを乞うものに対して、「理由になってない」と告げる彼からはカッコよさと残忍さがにじみ出ています。
この他にも、物語を進める中でテンポをよくしてくれる、個性的なキャラクターがたくさん出てきます。
登場人物の一人一人が魅力的なのも、伊坂作品の魅力でしょう。
明かされる真実に度肝を抜かれるはず
伊坂作品の魅力の2つ目。
それは後半にかけての怒涛の伏線回収です。
根幹の謎は優午の死の真相ですが、それだけで物語は終わりません。
謎を解くまでの過程で明らかになる驚きの真実。
これらは急展開でわかるのではなく、冒頭から伏線が張ってありました。
だからこそ驚きはひとしお。アッと驚く展開の数々に、ページをめくる手は止まらないことでしょう。
400ページを超える作品なので、ハードルが高く感じるかもしれません。
ただ、読み始めたらあっという間に終わることは間違いなし。
伊坂ワールドの1作目をぜひ堪能してみてください！
