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【感想】ジャーナリストを描いた6つの日常の謎(米澤穂信『真実の10メートル手前』)

日常の謎を扱った小説を数多く上梓している米澤穂信さん。

古典部シリーズは特に有名でしょう。

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今回はジャーナリストが主人公のシリーズものを紹介します。

『さよなら妖精』から始まる太刀洗万智のシリーズです。

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紹介する小説は『真実の10メートル手前』です。

高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と呼ばれた。

週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの大刀洗と合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める。大刀洗はなにを考えているのか?

滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、大刀洗万智の活動記録。

「綱渡りの成功例」など粒揃いの六編、第155回直木賞候補作。

『さよなら妖精』では高校生だった彼女ですが、10年経った今ではもう大人。

そしてジャーナリストになりました。そんな彼女が力強く描かれている短編集。

6つの短編が収録されている小説です。

真実の10メートル手前

ベンチャー企業、フューチャーステアが倒産した。

計画倒産で、投資詐欺の案件だったのではないかと言われている本件。

渦中にいる社長の早坂一太と、広報担当の早坂真理の兄妹の行方がわからなくなっていた。

2人からの言葉を得ようと、行く先を探そうとする記者たち。

その中には太刀洗万智もいた。

独自の推理から、彼女たちの居場所を考えるのであった。

事実に基づいて推理する展開はお見事。

無駄のない伏線とその先にある真実は素晴らしい出来でした。

後はラストの展開が何といっても心苦しいですね。

正義漢

人身事故が起こった駅のホーム。

正義感の強い男の前で、不謹慎にも現場を調べている女性がいた。

許せない男は彼女の様子を怪訝に見つめるのだが…。

20ページにも満たない短い話ですが、ストーリー構成が上手。

何となくオチは予想できましたが、そこに行き着くまでの設定が面白かったです。

恋累心中

高校生のカップルが亡くなった。

桑岡高伸は、上條茉莉を殺害した後に入水自殺をしたのだった。

2人が死んだ場所に因んで恋累心中と呼ばれた事件。

ジャーナリストの太刀洗は現場を調べるが何やらおかしな点が。

これは単なる無理心中だったのだろうか?

太刀洗の出した答えとは?

個人的には1番好きな作品でした。

そして、米澤さんの救いのなさが最もにじみ出ている作品です。笑

ミステリとしての謎要素はもちろんですが、その答えが容赦ない。

胸糞悪くなる物語でした。

名を刻む死

福岡県の民家で見つかった男性の死体。

彼は死ぬ前に「名を刻む死を遂げたい」と願っていた。

「名を刻む死」とは一体何なのか?

太刀洗は現場近くに住む少年と一緒に真相解明に乗り出すのでした。

タイトルが秀逸な物語。

老人がしたかったこととは何なのか?

そして、少年に対する太刀洗の優しさに少しほっこり。

前の話がひどいだけに、今回はまだ良いラストだなと感じました。

ナイフを失われた思い出の中に

太刀洗のもとにやってきたマーヤの兄。

観光はせずに、太刀洗の取材に同行させてもらうことになった。

太刀洗は、16歳の少年が3歳の姪を殺した事件を調べている最中だった。

事件は既に解決の様相だったのだが、太刀洗は母親の証言に不審点を持っていた…。

相変わらずちゃんとしたミステリなので、起こった事象に納得感がしっかりあります。

そこに至るまでの流れも良いですね。

そして、マーヤの兄との人間ドラマも。

マーヤの兄は、妹から聞いていた太刀洗と別人のような人柄に、嫌悪感を抱きます。

しかし、最後の最後で、その本質を理解します。

『さよなら妖精』からのリンクがとても心地よい物語でした。

綱渡りの成功例

長野県で発生した水害。

奇跡に助けられた戸波夫妻はちょっとした時の人になっていました。

助かった理由は、三男が事故の前に置いていったコーンフレークのおかげ。

食いつなぐことで難を逃れたのでした。

今回の救出劇に一役買っていた消防団員、大庭のもとにやってきた太刀洗。

彼女は戸波夫妻に話を聞きにやってきたというのでした。

日常の謎の要素はさすが!

不信感とその原因を紐解く推理は読んでて面白かった。

そして、その先にある物語の核と言える件もお見事!

「名を刻む死」もそうでしたが、タイトル付けが上手過ぎるんだよな。