降田天『すみれ屋敷の罪人』を紹介します。
長らく手付かずだった戦前の名家・旧紫峰邸の敷地内から発見された白骨死体。そこで暮らしていた屋敷の主人と三人の姉妹たちは、終戦前に東京大空襲で亡くなったはずだったが…。死体は一体誰のものなのか。かつての女中や使用人たちが語る、一族の華やかな生活、忍び寄る軍靴の響き、突然起きた不穏な事件。二転三転する証言から、やがて戦下に埋もれた真実が明らかになっていく―。(「BOOKデータベース」より)
「屋敷から見つかった死体の正体を探る」というちょっと変わったミステリ。いわゆる回想殺人のジャンルです。
このミス大賞受賞作の『女王はかえらない』や『彼女はもどらない』でとんでもない仕掛けを用意してくれていた降田さんですが、本作でも健在でした…。
屋敷から見つかった3体の死体
戦前には名家として名を馳せていた紫峰家。現在は廃墟になっていたその屋敷にて、3体の白骨死体が発見された。
この事件を受けて、ある人物からの依頼で西ノ森泉は白骨死体の正体を探ることになります。
父と娘3人の紫峰家、そこに住みつきの使用人たちが当時は生活をしていました。見つかった死体はその中の3人なのか?だとしたら誰なのか?
彼はかつて屋敷にいた人物に証言をとり、当時の状況などから推理をするのでした。
証言者の声から真相を探る
登場する証言者は全員で4名。約1年間を女中として過ごしていた老婆、使用人、料理人の娘、そして家具職人の息子。
紫峰家がどのような家柄だったのかが、証言を通じて明らかになっていきます。姉妹の関係や使用人たちが抱えている過去の罪など。
話が進んでいくにつれて、屋敷の関係者たちがどのような考え方を持っていて、どんな生活をしていたのかが明らかになっていきます。
しかし、証言者たちの話はどこか食い違いもあり、真実が何かは要領を得ません。それでも、全員が、紫峰家の人たちは東京大空襲で亡くなったと言います。
だとしたら、見つかった死体は一体誰のものなのか…?
小説の構成がお見事!
本作は第一章が「証言」パート、第二章が「告白」パートになっています。証言では、ここまで紹介した通り、西ノ森が当事者から話を聞いているところです。
この章では、それぞれの証言者とのやり取り後に、調査を依頼してきた人物とメールのやり取りをしている描写が描かれます。
読者からすると、この依頼人すら誰なのかわかりません。しかし、わざわざ紫峰家のことを調べさせているのだから、関係者であることはたしか。
話が一気に進むのが第二章。依頼人の正体から事件の真相までが一気に明らかになっていきます。このネタバラシの仕方がとても上手。驚く真実の連続で大変満足です!
私自身、読んでいる時は、証言をもとに真相を推理していました。気持ち良いくらいに真相は見抜けませんでした…。
後半から怒涛のネタバラシが始まりますが、そこからも失速することなく、むしろ加速すらしていきます。回想系の物語としても完成度はとても高いと思いました。