夏と言えばホラー。背筋が凍る、ヒヤッとするような怖い小説を読んでみたくなりますよね。
ホラー、ミステリ小説を中心に、夏におすすめの小説を10冊紹介します。幽霊の恐怖だけではなく人間の怖さをまとめてみました。
気になった本はぜひ読んでみてください!
Contents
1.芦沢央『火のないところに煙は』
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の〈私〉は驚愕する。忘れたいと封印し続けていた痛ましい喪失は、まさにその土地で起こったのだ。私は迷いながらも、真実を知るために過去の体験を執筆するが……。謎と恐怖が絡み合い、驚愕の結末を更新しながら、直視できない真相へと疾走する。読み終えたとき、怪異はもはや、他人事ではない――。
5つの短編ホラーが収録されている小説。どれも実話風です。第一話では著者本人の体験した話が語られます。
ここがきっかけとなり、他人の体験した怖い話を取材して、一冊の本にしていこうという流れになります。そして最後には、恐ろしいラストが待ち構えていました…。5つの独立した話がそれぞれどこかでつながっている、連作短編集です。
最初に書きましたが、どれも実話のように描かれています。フィクションのはずなのに、本当にどこかで起こった話なのではないかという語り口で、とても引き込まれました。
どれも意味がわかるとゾッとする上に、最後には驚きが用意されている。どんでん返しが好きな人にもおすすめのホラーでした。
2.澤村伊智『予言の島』
初読はミステリ、二度目はホラー。この島の謎に、あなたもきっと囚われる。瀬戸内海の霧久井島は、かつて一世を風靡した霊能者・宇津木幽子が最後の予言を残した場所。二十年後《霊魂六つが冥府へ堕つる》という――。天宮淳は、幼馴染たちと興味本位で島を訪れるが、旅館は「ヒキタの怨霊が下りてくる」という意味不明な理由でキャンセルされていた。そして翌朝、滞在客の一人が遺体で見つかる。しかしこれは、悲劇の序章に過ぎなかった……。
一度目はミステリ、二度目はホラーという謳い文句の一冊。その通りの作品でした。
有名霊能者によって、「死人が出る」と予言されている島を訪れた主人公たち。異質な雰囲気の漂うそこで友人の一人が水死体となって発見される。この島では何が起こっているのか…?
最初に読んだ時には、ラストで衝撃的な事実が明かされる。そして、その事実は本書がホラーになることを指し示していました…。
3.若竹七海『クール・キャンデー』
「兄貴は無実だ。あたしが証明してやる!」誕生日と夏休みの初日を明日に控え、胸弾ませていた中学生の渚。だが、愉しみは儚く消えた。ストーカーに襲われ重態だった兄嫁が他界し、さらに、同時刻にそのストーカーも変死したのだ。しかも、警察は動機充分の兄良輔を殺人犯として疑っている!はたして兄のアリバイは?渚は人生最悪のシーズンを乗り切れるか。(「BOOK」データベースより)
殺人の嫌疑をかけられた兄を助けるべく、妹は事件の捜査をする。夏のある日の出来事として描かれている本作。
女子中学生が主人公ということもあり、とてもライトでページ数も少ない小説です。しかし、結末にはゾッとすること間違いなしです。
それまでの爽やかさ溢れる青春ミステリとは打って変わって、最後の数行で背筋がゾッとすることが起こります。
体温を下げたい人はまずこれを読みましょう。すぐに涼しくなれます。
4.似鳥鶏『そこにいるのに』
撮ってはいけない写真、曲がってはいけないY字路……怖い、でも止められない。本格ミステリ界の旗手による初のホラー短編集。
13の不気味な物語が収録されている短編集。どの話も題材は日常生活。しかし、それぞれにちょっとした違和感があります。そして、その違和感から話は予期しない嫌な方向へと進んでいきます…。
実際に起こるかもしれないような状況を舞台にしているからこその怖さがあります。寝る前に読むとちょっと残ってしまうものもあるかもしれません。
5.辻村深月『きのうの影踏み』
小学生のころにはやった嫌いな人を消せるおまじない、電車の中であの女の子に出会ってから次々と奇妙な現象が始まり…、虫だと思って殺したら虫ではなかった!?幼い息子が繰り返し口にする謎のことば「だまだまマーク」って?横断歩道で事故が続くのはそこにいる女の子の霊が原因?日常に忍び寄る少しの違和感や背筋の凍る恐怖譚から、温かさが残る救済の物語まで、著者の“怖くて好きなもの”を詰め込んだ多彩な魂の怪異集。(「BOOK」データベースより)
不思議な世界観の短編が13篇、収録されています。どれも不穏な世界観で描かれる作品ばかりです。
長くても約40ページ程度で、中には5,6ページで終わる話もあります。1つ1つが短いのであっという間に終わってしまう。それなのに、どれもゾッとする怖さを孕んでいます。
怖いけどクセになる。いくらでも読めてしまうくらい、読み終わりたくないくらいに、クセになってしまいました。世にも奇妙な物語が好きな人にはぜひとも読んで欲しい一冊です。
6.道尾秀介『鬼の足音』
刑務所で作られた椅子に奇妙な文章が彫られていた。家族を惨殺した猟奇殺人犯が残した不可解な単語は哀しい事件の真相を示しており…(「〓(ケモノ)」)。同級生のひどい攻撃に怯えて毎日を送る僕は、ある女の人と出会う。彼女が持つ、何でも中に入れられる不思議なキャンバス。僕はその中に恐怖心を取って欲しいと頼むが…(「悪意の顔」)。心の「鬼」に捕らわれた男女が迎える予想外の終局とは。驚愕必至の衝撃作。(「BOOK」データベースより)
6つの短編が収録されている一冊。どの話も意味がわかると怖い話のような怖さがあります。先ほど紹介した辻村深月さんの『きのうの影踏み』と似たような印象を受けます。
最後にはゾッとするオチが待っている本作。どれもこれも怖さがありますが、それは人間的なものから、心霊的なものまで様々です。個人的には、「⺨(ケモノ)」が最も好きでした。
7.三津田信三『厭魅の如き憑くもの』
神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る「刀城言耶」シリーズ第1長編。(「BOOK」データベースより)
民族ホラー×ミステリという作品。村に伝わる伝説になぞられて起こる殺人事件。誰がどのように犯行をしているのか。それとも呪いなのか…?
ミステリではあるものの、ところどころで怖さのある一冊。気味が悪い感じで物語が進むからというのもありますが、解決編までは、どこまで人間のものなのかがはっきりしないのもその理由です。
そして、最後にはミステリとしての驚きとともに、恐怖を感じるオチも待っています。ミステリ、ホラーどちらの点でも一級品でした。
8.乙一『夏と花火と私の死体』
九歳の夏休み、少女は殺された。あまりに無邪気な殺人者によって、あっけなく―。こうして、ひとつの死体をめぐる、幼い兄妹の悪夢のような四日間の冒険が始まった。次々に訪れる危機。彼らは大人たちの追及から逃れることができるのか?死体をどこへ隠せばいいのか?(「BOOK」データベースより)
ちょっとした喧嘩がもとで、殺されてしまった少女・五月。彼女の視点で物語は進んでいきます。死体の視点で描かれるという変わった作品です。
五月を殺したのも同い年の少女なのですが、狂った世界観というか、全員が飄々と過ごしている感じが相まって、体に嫌なものが走る感覚がありました。もちろん、五月も例外ではありません。
死んでいるのに。殺されているのに、どこか達観している感じで、様子が描かれている。作品自体も怖いですが、雰囲気も怖いです…。
9.綾辻行人『Another』
夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、何かに怯えているようなクラスの雰囲気に違和感を覚える。同級生で不思議な存在感を放つ美少女ミサキ・メイに惹かれ、接触を試みる恒一だが、謎はいっそう深まるばかり。そんな中、クラス委員長の桜木が凄惨な死を遂げた!この“世界”ではいったい何が起きているのか!?いまだかつてない恐怖と謎が読者を魅了する。名手・綾辻行人の新たな代表作となった長編本格ホラー。(「BOOK」データベースより)
夜見山北中学に伝わる呪い。そして、主人公にしか見えていない女子生徒の謎。前半は謎だらけでわけがわかりません。それなのに、どこか怖さを感じる空気があります。
呪いの正体は一切わからない。不気味な世界観で話は進んでいき、読者も最初は何が何だかわかりません。
そして、徐々に話の輪郭が明確になってきて、ミステリ色が強まっていきます。ただ、ホラーとミステリが合わさった極上の作品です。
10.貴志祐介『黒い家』
若槻慎二は、生命保険会社の京都支社で保険金の支払い査定に忙殺されていた。ある日、顧客の家に呼び出され、期せずして子供の首吊り死体の第一発見者になってしまう。ほどなく死亡保険金が請求されるが、顧客の不審な態度から他殺を確信していた若槻は、独自調査に乗り出す。信じられない悪夢が待ち受けていることも知らずに…。恐怖の連続、桁外れのサスペンス。読者を未だ曾てない戦慄の境地へと導く衝撃のノンストップ長編。第4回日本ホラー小説大賞大賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
保険金殺人をテーマに扱っている本作。常に人間の怖さに焦点が当たっています。幽霊は出てこない。怪奇現象も起きない。それなのに怖いです。
終始、生きている人間の狂気にゾクゾクさせられます…。狂った人に追われる恐怖。自分の身が危うくなることへの緊迫感。フィクションのはずなのに、ドキドキが止まらない。お化けではないホラーを楽しみたいなら絶対にこの作品です。