このサイトでも何度か紹介をしている日常の謎。
普段の生活に潜むちょっとした不思議を題材にした物語です。
【感想】日常生活に潜むちょっとした謎(北村薫『空飛ぶ馬』) 【感想】小説初心者でも楽しめる傑作(米澤穂信『氷菓』)今回も日常の謎を題材にした短編集を紹介します。
加納朋子『ななつのこ』です。
表紙に惹かれて手にした『ななつのこ』にぞっこん惚れ込んだ駒子は、ファンレターを書こうと思い立つ。
わが町のトピック「スイカジュース事件」をそこはかとなく綴ったところ、
意外にも作家本人から返事が。
しかも、例の事件に客観的な光を当て、ものの見事に実像を浮かび上がらせる内容だった―。
こうして始まった手紙の往復が、駒子の賑わしい毎日に新たな彩りを添えていく。
第3回鮎川哲也賞受賞作。(「BOOK」データベースより)
ベースの物語展開は、以前紹介をした2作品と似ています。『ななつのこ』という小説にハマった主人公の駒子。
ファンレターと一緒に、自身が体験した日常の謎を書き添えます。
作者からの返信には、謎への回答が書かれていました。
このような流れで7つの日常の謎が登場します。
連作短編集ということもあり、ラストの伏線回収が素晴らしかったです。
スイカジュースの涙
謎:2㎞近く続いていた血痕の正体は何か?
最初の謎は物騒な事件のニオイがするものでした。
駒子の家の近くで血痕らしきものが点々と続いていたのです。
事件の様相を示していたものの、新聞でことの真相が報道される。
男子学生がケガをしたまま、家に帰っていただけだったのだ。
しかし、駒子はこれに納得をせず…。
最初の物語からなかなかインパクトのあるラストでした。笑
モヤイの鼠
謎:すり替わっている画に誰も気づかないのはなぜか?
駒子が友人と博物館を訪れたときの物語。
『悠久の時間』という画が30分後に見てみると別物になっていたのだ。
30分前には貼られていた売却済みの札は剥がされており、館長は「ずっとここにある画で、変わってなどいない」と言う。
30分間で誰かがすり替えたのか?
何のために?
そして『悠久の時間』はどこに行ったのか?
この作品は結構きれいなオチでした。
発想や見方を変えればすべてが変わる。
まさに日常の謎という物語です。
一枚の写真
謎:小学生の時、同級生はなぜ駒子の写真を盗んだのか?10年近く経った今、なぜ返したのか?
ポストに返却された駒子の写真。小学校時代になくしたと思われた幼い頃の写真だった。
おそらく犯人は小学校時代の友人、一美ちゃん。
家に上げた際に一枚の写真を抜き取っていたのである。
彼女はなぜ駒子の写真を盗んだのだろうか?
そして、10年近く経った今、なぜ返却をしたのか?
納得感のある理由に「なるほど!」となりました。
短い作品なのにしっかりと伏線を張って回収する。見事な展開でした。
バス・ストップで
謎:バス・ストップの近くで老婦人と子供は何をしているのか?
教習所へ向かうバス停の近くで、老婦人と子供が砂場で何かをしているのだ。
探し物をしているにしては、不自然な点もあり…。
何か悪さをしようとしているのか?
ちょっとほっこりできる物語でした。
この物語も、伏線の張り方がしっかりしているので、驚きはあるはずです。
(ただ、少しわかりやすいかもとは思いますが…)
一万二千年後のヴェガ
謎:デパートの屋上から消えた恐竜の遊具が、27㎞離れた保育園に現れたのはなぜか?
犯人はどのようして、恐竜を運び出したのか?
何のためにやったのか?
この点にフォーカスが当たる本作ですが、個人的にはうーんと思ってしまいました。笑
面白いアプローチではあるのですが、他と比べると尻すぼみな感じがありました…。
白いタンポポ
謎:少女はなぜタンポポの絵を白く塗ったのか?
サマーキャンプで真雪ちゃんという小学生と出会った駒子。
彼女は団体行動に苦手意識を持っていた。
少しづつ距離を縮めていく駒子。そんな時、ある不思議なことを知る。
真雪ちゃんはタンポポの絵を白く描いたというのだ。
タンポポと言えば黄色のはず。
彼女はなぜ白いタンポポを描いたのだろうか?
心が洗われる物語でした。
目に見えているものがすべてではない。
日常の謎はそうしたことを教えてくれるなと感じた物語です。
ななつのこ
謎:プラネタリウム上映中に消えてしまった真雪ちゃん。どこに行ってしまったのか?
本作の最後の謎。
真雪ちゃん親子と友人と一緒にプラネタリウムを見ていた駒子。
上映終了後、気づくと真雪ちゃんがいなくなっていました。
彼女はどこに消えたのか?
この謎が肝になっているのですが、『ななつのこ』全体を通じての華麗な伏線回収もありました。
読み応えのある短編集に加えて、このラストはミステリ好きも満足することでしょう。
また、本作には作中作としての「ななつのこ」が登場します。
- すいかを盗まれないように見張っていたのに、いつの間にかすいかがなくなっていた。いつ、どのように盗まれたのか?
- 各家庭の子猫が同じ時期に失踪。みんなどこに行ってしまったのか?
このような日常の謎が取り上げられており、1話につき1話紹介されます。
1つで2回楽しめるのはこの作品の良さでしょう。
すべてを読み終えた先には、ほっこりできるラストが待っています。
ほのぼのしたい人は是非読んでほしいなと思います。