ミステリ小説といえばどんな作品を思い浮かべますか?
孤島や屋敷で起こる連続殺人。何かに見立てられた奇妙な死体。密室やアリバイのある犯行。
こうした本格的な推理が醍醐味の作品が浮かぶこともあると思います。
ミステリには、死体がセットというイメージが多いかもしれませんが、人が死なないミステリというものがあることをご存知でしょうか?
日常の謎と呼ばれるジャンルで、その名の通り、普段の生活に潜んでいるちょっとした謎を題材にしたミステリです。
今回は「日常の謎」のおすすめ作品を紹介します!
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日常の謎とは?
日常の謎とは、普段の生活に潜んでいるちょっとした謎を題材にしたミステリです。人が死なないミステリと説明されることも多いです。
たとえば「雨が降っていないのに傘を持っているのはなぜ?」「砂糖を紅茶に延々といれている人の目的は?」などがあります。
犯罪が絡んでいない謎がメインで、悪意が介在していても軽微なものが多いです。そのため、殺人事件のような大きな犯罪が扱われることはほとんどありません。
謎の提示から解決までの過程まで、かなり論理的に進んでいくことが多いです。謎の魅力(どれくらい気になるか)や提示された内容からどのように事件を解決に導いていくのかが、醍醐味のジャンルでしょう。
おすすめ作品10選
北村薫『空飛ぶ馬』
日常の謎の嚆矢とされている作品です。5つの短編が収録されています。女子大生の「私」が見つけた謎を、落語家の「円紫さん」が解いていくというスタイルです。
日常の謎の例で書いた「砂糖を紅茶に延々といれている人の目的は?」は本作に収録されています。
ホッコリするものから少し嫌な後味を感じさせるものまで幅広く楽しめます。
「日常の謎をまず読みたい!」という人にはおすすめの作品です。
米澤穂信『氷菓』
「氷菓」というタイトルでアニメ化もされています。古典部シリーズの一作目です。
舞台は高校の古典部。省エネ主義の折木が、同級生の千反田の「わたし、気になります」をきっかけに謎の解決に巻き込まれるというのが大枠の流れです。
本作では日常の謎に加えて、作品全体での謎も用意されています。
軽めの日常の謎と、少し歯応えのある日常の謎を両方楽しめる一冊です。
なお、本作はシリーズものになっています。どれも日常の謎がメインなので、面白かったら続編も読んでみてください!
【古典部シリーズ】米澤穂信『氷菓』の読む順番と全作の感想加納朋子『ななつのこ』
『ななつのこ』という小説にハマった主人公の駒子。彼女は作者に宛てたファンレターと一緒に、自身が体験した日常の謎を書き添えます。
そして、作者から届いた返信には、彼女が体験した謎への回答が書かれているのでした。
文通のような形で展開していく日常の謎です。7つの物語が収録されています。
連作短編集になっているので、最後の物語でこれまでの伏線回収もされていきます。最後には想像していなかった展開も待っています。
青崎有吾『早朝始発の殺風景』
学生が主人公の短編集です。5つの日常の謎が収録されています。
始発電車に乗り合わせた二人の高校生。彼らは何のためにそんな時間の電車に乗るのか?
大して親しくもない男の後輩と観覧車に乗ることになった男子大生。なぜそんな誘いをされたのか?
どれも真相を知ると納得のできるものばかりで、ミステリ好きなら楽しめるはずです。
一部つながりはあるものの、基本的には独立した物語なので、お気に入りの作品を見つけるのも面白いかもしれません。
知念実希人『祈りのカルテ』
病院が舞台のミステリ。5つの短編が収録されており、どれも病気や医療に関連する謎が題材となっています。
入院患者たちの不可解な言動にはどんな本音が隠されているのか?
研修医の諏訪野が、持ち前の知識と患者への寄り添いから真実を解明していくという作品です。
病院での日常の謎というなかなかお目にかかることはないジャンルだと思います。どれも伏線の活きた解決があるので、満足感のある一冊です。
三上延『ビブリオ古書堂の事件手帖 ~栞子さんと奇妙な客人たち~』
本に関してかなりの知識を持っている古書店の店主・栞子さんが探偵役を務める作品です。
彼女のお店には、お客さんから本にまつわる謎が持ち込まれてきます。これらの謎を解いていくというミステリです。
謎はすべて本が絡んでいるものになっており、実際の作品や本がテーマになっています。読んでいると作中で出てくる、本を手にしてみたいという気持ちにもなります。
岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を』
京都の喫茶店を舞台にした作品。主人公のアオヤマが持ち込む日常の謎をバリスタの切間が解決していくという物語です。
コーヒーに関する雑学を楽しみつつ、謎解きが進んでいくというミステリです。
基本的には1話完結で物語は進んでいきますが、本作も連作短編集になっています。最後にはちょっとした驚きも待っていて最後まで楽しめます。
七河迦南『七つの海を照らす星』
児童養護施設を舞台にしたミステリ。全部で7つの短編が収録されている、連作短編集です。もちろんすべて日常の謎です。
学園で起こる不可解な謎を保育士が解き明かしていくという物語です。
日常の謎ではあるものの、かなりしっかりとしたミステリになっている印象を受けました。濃厚な謎解きを楽しみたい人にはピッタリでしょう。
また最後にはとんでもない衝撃が待っているのも本作の魅力です。衝撃的な展開をぜひ体験してみてください。
若竹七海『ぼくのミステリな日常』
社内報の編集長になってしまった主人公は、ひょんなことから匿名作家からの小説を誌面に載せることになる。
12の短編からなる連作短編集で、それぞれに趣向が異なるミステリが展開されていきます。
怖い話もあれば、騙す感じの物語まで。日常の謎ではありつつも、さまざまなミステリを味わえる一冊です。そして、最後の展開にも要注意ですよ!
坂木司『青空の卵』
「僕」の周りで起こる不思議な謎を、引きこもりの友人が解決していくという作品です。
日常の謎が4つ収録されています。「僕」が持ち帰った謎を、探偵役の友人はあっという間に解決してしまいます。
「なぜそんなことがすぐにわかるの?」という展開から、推理の過程が明かされていきます。すべてがわかると、なるほどとなる。解決までの流れが少し変わっていて、だからこそ面白い作品です。