タイトルの通り、今回はネタバレで作品を紹介します。
取り上げるのは、辻村深月『名前探しの放課後』です。
依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。「俺、もしかして過去に戻された?」動揺する中で浮かぶ一つの記憶。
いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談を持ちかける。「今から俺たちの同級生が自殺する。でもそれが誰なのか思い出せないんだ」二人はその「誰か」を探し始める。(「BOOK」データベースより)
ネタバレなしの感想については以下でまとめています。
【感想】伏線回収が半端ない!辻村作品の集大成!(辻村深月『名前探しの放課後』)なぜ、私がこの作品のネタバレをレビューしようと思ったのか。それは、本作の作品リンクと伏線回収が巧妙過ぎるからです!
まず簡単にあらすじを。
主人公の依田いつかは、ある違和感をおぼえます。その正体は、自分は過去に戻っているのではないか?という疑問でした。
いつかは、3か月後に同じ学校の生徒が自殺をしたことを記憶していました。でも、それが誰なのかわかっていない。
クラスメイトの坂崎あすな。友人の秀人とその彼女・椿。秀人の友人・天木の4人と、自殺者を探し始めるのですが…。尚、ここからは一気にネタバレをかましていきますので、未読の方は絶対に読まないでください。
そんな叙述トリックありですか??
本作のスゴイところ。
それは『ぼくのメジャースプーン』の設定をメイントリックに使っている点でしょう。
『ぼくのメジャースプーン』で言うところの「ぼく」が秀人、「ふみちゃん」が椿だったなんて。
最後の最後のネタバラシがこれなんて凄すぎる。
過去の作品をここまで上手に使うなんて、辻村さんにしかできないだろうなと…。
まさかここで条件提示ゲームが出てくるとは思いませんよ!
いつかは条件提示ゲームの影響で、タイムスリップしていた。
というか、これはタイムスリップしてないんだろうなと思います。
「今から三カ月後、自分が本当に気になってる女の子が死ぬって仮定してみてよ。そうしたら、自然と誰か思い当たらない? そういうのがないなら、いつかくんの人生はすごく寂しいよ」
「ふみちゃん」をバカにされたことで、「ぼく」はつい能力を発揮してしまったんですね。
思い当たる人がいない。となれば寂しい人生になってしまう。
必死に思い当たる人を探した結果、坂崎あすなが思い当たったということなんですね。
自殺することになっていたのは、坂崎あすなでした。河野基はミスリードだったのですね。
『es』を見ていたというシーン。(上巻P292)
→刑吏と受刑者に別れた実験をしたらどうなるか?という様子を描いた映画。権威効果で刑吏が強くなりすぎてしまう過程が書かれている。意図的ないじめで、その構図にならないように注意するためだったのか…。
「(前略)もうあと、二日だっただろ? どうしてそれをやり過ごせないんだよ。(後略)」(下巻P276)
→友春と河野基が仲良くしてることに対して言っていたんですね。
また、おそらくですが、あすなが死ぬこともなかった気もしています。
これはあくまでゲーム内で、いつかが「あすなが死ぬことを仮定してしまった」結果のはずです。
「私、死ななかったと思うよ」というあすなのセリフ(下巻P432)は、実際そうだったのでしょう。
作品間のリンクがすごい!!!
『ぼくのメジャースプーン』とのリンクが特にすごい小説です。
まず、秀人は「ぼく」。椿は本名が椿史緒(ふみお)で「ふみちゃん」。
なので、スポーツができて生徒会長を目指している天木孝は「タカシ」ですね。
そして、秀人と喧嘩した過去がある小瀬友春は「トモ」。
『ぼくのメジャースプーン』で条件提示ゲームをさせられているトモ。
「もう二度と学校に来るな。そうしなければ、お前はもう二度とふみちゃんと口をきけない」
この効力があるので、椿と友春は会話しているシーンがないんですよね。
あと、いつかが別れた彼女・豊口絢乃は「あーちゃん」かな。
美少女という描写は『ぼくのメジャースプーン』でもありましたからね。
秀人と食事をしていた「昔の恩師」として秋山先生も出てきます。(下巻P282)
そして、松永家に行った時に、椿は多恵さんと会話しているんですよね。(下巻P320)
また、『凍りのくじら』の理帆子が相変わらずドラえもん好きが前面に出てます。笑(下巻242)
ここは二度読みして気付きました。
【感想】少し・不思議なミステリ!ドラえもんがモチーフの青春小説(辻村深月『凍りのくじら』)また『スロウハイツの神様』のチヨダ・コーキの本を、河野とあすなが電車で読んでいます。(下巻P147)
【感想】伏線回収の連続にミステリ好きも満足!(辻村深月『スロウハイツの神様』)ここまで作品間リンクと伏線回収がしっかりしている小説はなかなかありません。
『子どもたちは夜と遊ぶ』『ぼくのメジャースプーン』『名前探しの放課後』
小説好きの人には、これら3作品はぜひとも読んでほしい小説です!