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【感想】悩みを昇華してくれる短編集!自然現象がもたらす神秘(伊与原新『八月の銀の雪』)

八月の銀の雪

2021年本屋大賞ノミネート作品、伊与原新『八月の銀の雪』を紹介します。葛藤を抱える5人の物語。どれも心に安らぎを感じられる素晴らしい作品でした。

不愛想で手際が悪い―。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた驚きの真の姿。(『八月の銀の雪』)。子育てに自信をもてないシングルマザーが、博物館勤めの女性に聞いた深海の話。深い海の底で泳ぐ鯨に想いを馳せて…。(『海へ還る日』)。原発の下請け会社を辞め、心赴くまま一人旅をしていた辰朗は、茨城の海岸で凧揚げをする初老の男に出会う。男の父親が太平洋戦争で果たした役目とは。(『十万年の西風』)。科学の揺るぎない真実が、人知れず傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。(「BOOKデータベース」より)

直木賞にもノミネートされている小説。科学的な事象を題材にしており、これらが物語で重要な役割を果たしています。新感覚な作品として楽しめました。

冴えない主人公たちの物語

本作の主人公たちはどこか冴えない人ばかり。普通の人たちが持ち合わせているもの持っていない。そんな彼らの悩みや葛藤を丁寧に描いています。

表題作の「八月の銀の雪」では、就活が上手くいかない大学生が主人公。コンビニでバイトしている女性の外国人を見下していました。

しかし、実は彼女は将来有望な研究者でした。そして、彼女から聞かされた“地球の内部”の話に影響を受けます。

人生の岐路でうまくいかない主人公の様子を丁寧に描きながら、それでも立ち向かっていこうとなる様子に勇気をもらえます。このような人間の成長が、共感できるように綴られています。

テーマがどれも新鮮

本作は自然科学の事象をテーマに、人間とのドラマを描いています。上で紹介した「八月の銀の雪」では地球の内部に関する話。

2作目の「海に還る日」ではクジラやイルカの習性、海に関する自然の不思議をテーマにしています。この他にも、伝書鳩の習性と歴史、珪藻アート、凧揚げと戦時中の話など。

生活している時には気にかけないようなテーマで描かれている作品ばかりで、読んでいて面白い知識にもなっていました。

また、これらの話は単にうんちくとして出てくるわけではなく、物語で重要な役割を果たしています。主人公の成長に欠かせないテーマとして、悩みの共感という点で重要な役割をしているのです。

心に響く短編集

悩んでいた人たちが、自然現象の話を知って、希望を持ち始める物語。どれも読み終えた後には心に安らぎが出てきます。

自然の持つ力と、主人公たちの物語がリンクして、最後には清々しいラストを迎えてくれる作品ばかり。自分が何に悩んでいるかで、好きな作品も変わってくるように思います。

どこか生きづらさを感じているのであれば、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。きっと自然の素晴らしさに心打たれることと思います。