伏線回収やどんでん返しの凄さに定評のある道尾秀介さん。道尾作品の魅力と言えば、前半から張り巡らされていた伏線が、後半になって一気に回収されていくことでしょう。ミステリ好きにはたまらない作品ばかりです。
そんな道尾さんですが、変わり種とも言える作品を刊行していることでも知られています。
物語の最後についている写真によって話が完結するようになっている作品、『いけない』。どの順番で読んでも物語が成立するし、順番によって印象が変わるように設計されている短編集、『N』。
普通の小説では有り得ないようなエッセンスを加えることで、新しい観点での物語を生み出しています。そんな新しいスタイルの作品が2023年11月に刊行されました!
タイトルは『きこえる』です。
あなたの「耳が」推理する。「音」が導く真相に驚愕する。
読者を1ページ目から未知の世界へ連れて行く。謎が「きこえて」くる。
衝撃が、あなたの耳に直接届く。
物語×音声。小説を立体的に体感する、まったく新しい「謎解き」の新体験型エンタメ、誕生!突然死んでしまったシンガーソングライターが残した「デモテープ」。
家庭に問題を抱える少女の家の「生活音」。
言えない過去を抱えた二人の男の「秘密の会話」。
夫婦仲に悩む女性が親友に託した「最後の証拠」。
古い納屋から見つかったレコーダーに残されていた「カセットテープ」。私たちの生活に欠かせない「音」。
すべての謎を解く鍵は、ここにある。
今回は小説に音をミックスした作品、『きこえる』をネタバレなしで紹介します。
「小説×音声」新感覚のミステリ
この小説には5つの短編が収録されています。どの短編にも、途中や最後にQRコードがあります。
読み取るとYoutubeが見れるようになっていて、ここには登場人物たちの会話などの「音」が聞けます。この「音」が作品において、重要な鍵となっています。
基本的には、作品の最後にあるQRコードによって、話のオチがわかるように設計されていますが、時には伏線としての重要な役割も担っています。
『いけない』と似たような構造です。音声になっているので、『いけない』よりもわかりやすいかもしれません。
ただ、侮る勿れです。どの短編も同じようなオチになっていることはなく、それぞれで違った角度から「音声」による仕掛けを用意してくれています。
今回は収録されている5つの短編の紹介と感想を、ネタバレなしで書いていきます。
聞こえる
冒頭にあるQRコードから流れてくるのは、シンガーソングライターとしての夢を追いかけていた女性・夕紀乃の歌。夕紀乃は事件に巻き込まれて亡くなっていました。そして、その歌には、彼女の声が入っているのでした。
ぼそぼそと話している彼女の言葉。どうやら聞き手に何かを伝えようとしているのですが…。
物語を終えて、作品の最後にあるQRコードの音声を聞くとオチがわかるようになっている。こういう構成の物語なのかと教えてくれる。
きっと読み返したくなるはずです。音声をオチに使うことでのトリックの面白さを感じられます。
にんげん玉
人生に破れている男性の物語。彼は人生の逆転を狙って投資セミナーに参加するのですが、そこである出会いを果たしますが…。
個人的にはもっとも面白かった物語です。まさかの展開で思わず該当箇所を読み返してしまいました。衝撃的な内容でした…。
音声という媒体を上手に使った物語だと感じました。ここまで上手にオチを持ってくるとは思いませんでした。
セミ
小学生の子どもが主人公の物語。少し変わった友人・セミとのやり取りを描いているのですが、なかなか気持ちの良いものではなかったです。少し心が苦しくなるような物語でした。
作品の途中でもQRコードがあり、それが伏線にもなっている。そして最後のオチに繋がっていく。
しかし、個人的にはオチがイマイチ掴むことができなかったです…。なんとなくのオチはわかったのですが、しっくりしてない部分もあり、ちょっと難しいなと思いました。
ハリガネムシ
塾講師をしている男性は、高校生の女性生徒に盗聴器を仕掛けている。その音声を聞いているという物語。その生徒は、義父から暴力を受けているのでした。
盗聴によってその事実を知ってしまった男。彼はどうするべきなのかを悩み始めるのですが…。
この話も音声をうまく使ったオチが待ち構えています。このオチこそ、音声じゃないとできないものだなと感じました。華麗な展開も含めて、設定をうまく利用した物語です。
死者の耳
謎の死を遂げた二人の男女。彼らは自殺だったのか。それとも殺人だったのか。5つの中ではもっともミステリ色が強い物語だと思いました。音声が伏線になっていることはもちろんなんですが、地の文もきちんとしたミステリでした。
また、この物語だけは、これまでとは趣向が異なる内容になっていました。どのように違うのかは読んでみてからのお楽しみです。
冒頭の音声からの最後の音声。最初の音声のおかげで、オチが上手く活きているように思いました。