このミス大賞でデビューをした作家、辻堂ゆめさん。
【感想】驚愕のラスト!自分が認識されない理由とは?(辻堂ゆめ『いなくなった私へ』)軽妙なテンポで進んでいく物語はとても読みやすい。
そして、その中に仕掛けられたどんでん返しの種がラストで花開く。
驚きのラストに定評のある作家のひとりです。
今回は辻堂さんの2作目の小説を紹介します。
『コーイチは、高く飛んだ』です。
全日本種目別選手権の鉄棒で優勝した体操界期待の新星・結城幸市は、コーチを務める両親や応援してくれる幼馴染らに囲まれ、充実した日々を送っていた。だがある日、妹の似奈が階段から転落し、意識不明の重体になったときから、すべての歯車が狂い出す―。立て続けに重なる不幸に心が折れかけながらも、幸市は大会に向けて猛練習に励む。瑞々しい青春スポーツミステリー。(「BOOK」データベースより)
体操選手を主人公に据えた本作。
辻堂作品の中で、私が最も好きな小説です。
切なすぎるラスト。
そして、ラストで明かされる真実がとんでもない破壊力を持ってました。
体操選手のコーイチ
高校生にして全日本の種目別鉄棒で優勝し、日本代表にも選ばれた幸一。
世間から注目を集める新進気鋭の選手です。
コーチの両親、体操をやっている中学生の妹、似奈とも仲が良く、順風満帆な人生を送っていました。
しかし、幸一の周りで体操器具の故障など、ちょっとした悪意が散見されるようになります。
そして、ついに大きな事件が起こります。
妹の似奈が歩道橋の下で倒れているのが発見されたのです。
頭から血を流していた彼女は意識不明の重体。
体操をやっている彼女が階段から落ちただけでこうなるわけない。
誰が何のために妹をこんな目に遭わせたのか?
そして、これまでの事故とは関係があるのか?
2つの視点で進む物語
本作は2つの視点。過去と現在視点で物語が進みます。
過去は高校生の幸一視点。
過去視点の幸一は、家族が不幸にいる今こそ体操に打ち込もうと精を出します。
自分ががんばることで家族を勇気づけようと。
そして、意識が戻らない妹のために体操の選手権に臨むのでした。
一方で、現在の視点は、妻子を持つ、ある男性視点。
現在の語り手は、体操を見ることを嫌っており、体操にネガティブな感情を持っていることが見受けられます。
そして、誰かが亡くなってい描写もあり、過去の登場人物の誰かが死んでいる様子がわかります。
果たして亡くなっているのは誰なのか?を考えながら読むのですが、ラストでとんでもない事実が明らかになるのでした。
どんでん返しが非情で読後感が切ない
本作の大きな見どころ。それは謎が数多くあることです。
幸一の周囲で起きていた器具の故障の真相。
妹が転落したのは事件なのか?事故なのか?
誰が何のためにそのようなことしたのか?
そして、現在の章で亡くなっているのは誰なのか?
考えに考えを巡らせ、何となく読んでいましたが見事に騙されました。
これは気付かない。というか受け入れたくない真実でした。
あまりにも非情で切ないラストにしんどくなりました。
もう少し救いのあるラストであってほしかった。
青春小説でありながら、とんでもない苦みをまとっている本作。
どんでん返し&後味悪い作品が好きな人はぜひ読んでみてください。笑