七河迦南『七つの海を照らす星』の感想をまとめました。
児童養護施設で働く女性と、生徒たちとの間で起こる日常の謎が7つ収録されている作品です。連作短編集になっており、最後には作品全体に仕掛けられていたある真実が明かされます。
様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。孤独な少女の心を支える“死から蘇った先輩”。非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。女の子が六人揃うと、いるはずのない“七人目”が囁く暗闇のトンネル…七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、“真実”の糸によってつながり、美しい円環を描いて、希望の物語となる。繊細な技巧が紡ぐ短編群が「大きな物語」を創り上げる、第十八回鮎川哲也賞受賞作。(「BOOKデータベース」より)
各短編のあらすじとともに、紹介をしていきます。
どの短編もミステリとしての完成度が高く、とても楽しめました。そして、本書にはある仕掛けが施されています。読後、作品が始まる前からあることに騙されていたことに気付きました…。
学園七不思議を題材にしたミステリ
この作品は学園七不思議を題材にしており、そこと連動した日常の謎を解決していくというストーリー展開です。
- 死んだはずの生徒が学園に現れた謎
- 非常階段から消えた生徒の謎
- 少女が六人揃うと怪奇現象が起こるトンネル
こうした非現実的な現象と掛け合わせて起こる不可解な謎。その先にはどんな真相が隠されているのかを考えながら読むのはとても楽しかったです。
日常の謎が好きという人は、是非読んで見た方が良い作品でしたね。
明るい作品から暗い作品まで豊富
日常の謎には、ありがちな設定ですが、今作もハッピーエンドからバッドエンド(後味が良くない)と様々なパターンで作品が用意されていました。
個人的に好きな作品は2作目の「滅びの指輪」。ネタバレになるのでどの話かまでは言いませんが、北村薫さんの『空飛ぶ馬』のある話とラストの印象がとても似ており、大好きです。
そこに行き着くまでのストーリー展開が素晴らしいのはもちろんなのですが、やはりオチが良いと魅力は増しますね。
作品外にあるとんでもない仕掛け
個人的に本作をおすすめしたいポイントは、2つあります。1つは最後の最後で読者を待ち受けているどんでん返しです。
冒頭で、この作品は連作短編集だと紹介しました。どの短編も素晴らしく、それだけでも十分に面白いのですが、それ以上にラストの展開は素晴らしいです!
予想もしていないところで、実はすごい真実が隠されており、最初からずっと騙されていたことに気づかされました。このラストのオチだけのために7つの短編が存在していたと言っても過言ではないくらい、衝撃的な展開が待ち構えています。
『葉桜の季節に君を想うということ』と同じように、これだけのために前振りが壮大でしたね。多くを語るとネタバレになってしまうので控えますが、心して読んでください。笑
そして2つのポイントが、作品外に仕掛けられていたあることです。これは読んでほしいとしか言えないのですが、個人的にはどんでん返し以上に好きな内容でしたね。
もしかすると勘の良すぎる方なら気付いてしまうかもしれませんが、大抵の人はそこまで気にかけないと思います。「あれ?」と思う程度でしょう。私自身、ちょっと違和感はあったのですが気にも留めませんでした。
ただ、違和感を持っていた分、仕掛けがあった時の驚きは大きかったです。是非、この体験もしていただきたいなと思います。
尚、本作には『アルバトロスは羽ばたかない』という続編があります。この作品もラストが素晴らしいです…。
『七つの海を照らす星』を読んでからの方が驚きが大きい(というか未読だと大してビックリできないかも)ので、まずは今回紹介した作品を読んでからにしてくださいね!