恩田陸『鈍色幻視行』の感想と作品紹介をします。単行本で700ページ近い超大作となっています。
撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督の角替、映画プロデューサーの進藤、編集者の島崎、漫画家ユニット・真鍋姉妹など、『夜~』にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。次々と現れる新事実と新解釈。旅の半ば、『夜~』を読み返した梢は、ある違和感を覚えて――
舞台はとあるクルーズ船。ある呪われた小説に関わりのある人物が一堂に会します。そこで行われるのは、その呪われた小説に関する取材でした。旅行が終わった時に明らかになっていることは一体なにか…?
呪われた作品『夜果つるところ』とは?
この物語の中心にあるのは一冊の小説です。それは飯合梓が著した『夜果つるところ』。この作品は呪われた小説だと言われています。
なぜなら、映像化をしようとするたびに不慮の事故が起こってしまい断念せざるを得なくなるから。これまでに3回、撮影中に事故や事件が起こり、数名が命を落としているのでした。
いわくつきの作品にはどんな背景があるのか。小説家の蕗谷梢は夫と一緒にクルーズ旅行に向かいます。その船には、『夜果つるところ』の関係者も乗っているのでした。船旅を通じて、梢はこの作品について取材を始めます。
『夜果つるところ』はどのようにして、いわくつきの作品になってしまったのか。そして、本当に呪われた作品なのか…?
読めば読むほどに深まっていく謎
本作にはとにかく謎が多いです。例えば『夜果つるところ』の撮影中に起きた事故は何が原因だったのか。そこには人ではない幽霊の存在があったのではないかなど、少しホラーのような雰囲気が出てくる場面もあります。
また、梢の夫の元妻は『夜果つるところ』に関わったのちに、謎の書き置きを遺して自殺しています。彼女の身に何が起きていたのか?
この他にも、著者の飯合梓に関しての謎もあったり、船に乗っている関係者に関する謎が出てきたり、読めば読むほどにさまざまな謎が目の前に現れてきます。
しかし、ジャンルはミステリーと言っていいのかはわかりません。わかりやすい事実の開示はないからです。なので、明確な答えを求めている人は少し物足りなさを感じてしまうかもしれません。
読めば読むほどに謎が謎を呼び、読者はどんどん沼にハマっていく。伝わる人には伝わると思いますが、まさに恩田陸の世界観が詰め込まれた作品だなと私は感じました。
読み終えた時に残るものとは…?
先ほど、わかりやすい事実の開示はないと書きました。しかし、作品内で提示された謎の一応の解釈はされるようにはなっています。
ただ、これをどのように受け止めるかは読者次第なのかなと思いました。読後に残る印象は人によって変わってくるかもしれません。
個人的には読み応えがあって、一緒に船旅をしていたような謎の疲労感もありました。そして、どんでん返しとは違った衝撃をもたらしてくれた良い作品だったと思っています。
ただ、『夜のピクニック』や『蜜蜂と遠雷』の次の作品として読もうとしている場合はおすすめできないです。(タイプが違いすぎるので…)
なお、本作の題材になっている小説『夜果つるところ』は実際に発売されています。
ここまで沢山の人を惹きつけてきた作中作がどのようなお話なのか。ところどころ、物語の紹介はされていますが、かなり気になります。(ただ、この作品の中で『夜果つるところ』のネタバレをガンガンしているので大丈夫なのかなという気も…)