木江恭『鬼の話を聞かせてください』を紹介します。鬼にまつわる事件の真相をライターが探っていくというミステリ短編集です。
SNS上の企画「あなたの身に起きた〝鬼〟のエピソードを教えてください」に寄せられた三つの事件。投稿者あるいは関係者三名の前に現れたのは、ひとりの男だった。桧山は「推理ゲーム」と称して隠された真相を暴いていく。秘密にしていたことが知られたとき、すがっていたものが壊れた瞬間、優位だと思っていた自らの立場が危うくなったときの表情が見たい――桧山の真の目的はそれだった。
鬼の噂が絡んだ過去の事件を、フリーライターが解き明かしていくという物語。そして、最後には驚きが用意されている。ネタバレなしで紹介をしたいと思います!
鬼に関する話を集めるライター
「現代の都市伝説」と題して、「あなたの体験した鬼にまつわる話を聞かせてください」というSNSの企画を実施したフリーライターの霧島。そこで集まった3つの事件を描いた作品です。
本作の構成としては、霧島の代理でやってきた・桧山という写真家が、それぞれの事件の関係者に話を聞くというものです。そして、話をもとにして、事件の結末を推理するという内容です。安楽椅子探偵のような形式です。
どの話も鬼に関する事件と、結末が素晴らしく、あっという間に読み終わってしまう物語でした。
各話のあらすじと感想
この小説に収録されているのは4つの短編です。タイトルが鬼にまつわる遊びになっているのも特徴です。それぞれのあらすじと感想を書いていきたいと思います。
影踏み鬼
小学生の頃に訪れた祖父の家で鬼の影を見たという女性。その翌日、祖父は首を吊って自殺した姿で発見された。鬼が祖父を連れて行ってしまったのか、それとも…。
1つ目の短編ということで、この短編集がどのような構成になっているのかの説明のような役割も果たしています。基本的には、タイトルになっている遊びと事件が若干絡んでいる。そして、関係者の話を聞いた桧山が、事件の真相を推理するという物語です。
本作では、鬼の影が事件を起こしたという不思議な物語のように見えます。しかし、本作はミステリです。最後には論理的な展開から犯人と、その動機がわかるようになっています。
ネタバレになってしまうので、書けないですが、真相がわかった時のゾッとする感じがたまりませんでした。
色鬼
まったく同じ色合いで、街の壁に落書きがされるという通称・色鬼事件。その事件の犯人(色鬼)が商店の店主に怪我をさせた数日後。今度は、殺人事件を起こしてしまう。その事件の詳細を、桧山に聞かれるおまわりさんでしたが…。
ミステリ要素は、影踏み鬼の方が強いかもしれません。ただ、色鬼の犯行の意図や見えていなかった事件の真相がわかった時に、背筋が凍るような恐怖がありました。
手つなぎ鬼
六十年前に起きた、嫉妬に狂った女性の心中事件。その女性は心中立ての鬼女と呼ばれていた。彼女の兄・樫本一彦は、桧山に取材を申し込まれることになります…。
六十年前という昔の事件の真相に迫っていく物語。一見、なんの変哲もない心中事件かと思いきや、徐々に違和感が姿を表してくる。この違和感もすべてキレイに解消されていき、最後には事件がまったく違った結末を迎えることになります。
ことろことろ
これまでの3作品とは異なり、霧島の視点で進んでいく物語。彼が記事を執筆するために、転落死した男性の事件の捜査をしていく過程が描かれます。転落死した男性の手元に、面識がなかったはずの美少年の写真があったのです。彼はなぜそんな写真を持った状態で死んでいたのか。そして、事件は他殺か、自殺か。
事件の顛末までは正直、衝撃は弱いかもしれません。しかし、最後には驚きの結末が待ち構えていました…。
プロローグ/エピローグの意味
本作は「プロローグ/エピローグ」という章から始まります。なぜプロローグとエピローグが同じものとして、1つにまとまって書かれているのか。読み始めた時は不思議で仕方ありませんでした。
しかし、最後まで読むと、再び「プロローグ/エピローグ」を読み直したくなるはずです。ここに、本作の驚きポイントがあります。各話にちょっとした違和感があるのですが、最後には明らかになります。(一部謎のままのところもありますが…)
まったく予想していなかったタイミングでオチが明らかになるので衝撃がありました。伏線が回収されないのかと思っていた時に、「そういうことだったのか」があるので、楽しいはずです。また、先ほど紹介したとおり、各話が単独でも楽しめるようになっています。