原田マハ『楽園のカンヴァス』を紹介します。ルソーの絵画にまつわる謎を追い掛ける物語。絵に興味があまりない私でも、没頭できるほどに物語に惹かれました。様々な点で楽しめる小説でした。
ニューヨーク近代美術館のキュレーター、ティム・ブラウンはある日スイスの大邸宅に招かれる。そこで見たのは巨匠ルソーの名作「夢」に酷似した絵。持ち主は正しく真贋判定した者にこの絵を譲ると告げ、手がかりとなる謎の古書を読ませる。リミットは7日間。ライバルは日本人研究者・早川織絵。ルソーとピカソ、二人の天才がカンヴァスに篭めた想いとは―。山本周五郎賞受賞作
恋愛要素もあり、ミステリ要素もあり。絵画にまつわる話ですが、これまで馴染みがなくても問題ありません。読み終わった頃には、美術館でルソーを見てみたくなる小説です。
交錯する過去と現在
美術館の監視員として働いている早川織江。倉敷で高校生の娘と母と一緒に生活をしていました。
織江は大学時代にパリで美術を学んでいましたが、そこで娘を身籠り、未婚の状態で故郷に帰ってきていました。そんな彼女を周囲の人たちは、嫌なものを触れるかのように接しています。娘との仲も良好ではありませんでした。
そんなある日、彼女は美術館の館長室に呼ばれます。そして、そこであることを依頼されます。ルソーの名画を日本に持ち込むための交渉人になって欲しいというのです。
交渉人に指名してきた相手は、ニューヨーク近代美術館(MOMA)のチーフキュレーター・ティムブラウン。織江は、学生時代にティムとの交流があったのでした。
織江とティムの間にはどんな関係があったのか?
そんな謎を持ったまま、話は過去に遡ります。本書は過去の話がメインなので、ここから2人にまつわる物語が幕を開けることになります。
ルソーの作品は贋作か、本物か
16年前。ティムのもとに届いた一通の招待状。そこにはルソーの『夢』によく似た作品・『夢を見た』が贋作か本物かを見抜いた者に所有権を譲るとありました。
タイムリミットは7日間。何者かの書記を読み、ルソーの過去を推測。作品がどちらなのかを見抜くことになります。7日経った後に真贋を判定して、その理由を講評する。
講評が理に適っていた方が勝利となるというのが、今回の内容でした。
そこでの対戦相手が早川織江でした。若くして美術の研究界隈で名を馳せている彼女。ルソーに関しての論文も書き上げているほどの研究者でした。
ルソーは本当に『夢を見た』を書き上げていたのか。晩年にはどんなことがあったのか。そして、真贋の講評では、どちらが勝利を手にするのか。
先が気になる要素が盛りだくさんの物語でした。
実在の名称が随所に登場
美術に興味がなかった私がここまでハマった理由。それは作中に出てくる固有名詞がほぼ実在するものだからでした。本書の題材になっている『夢』はもちろん存在しています。何なら本作の表紙がそれです。
その他にも、倉敷にある大原美術館に展示されている、エル・グレコの『受胎告知』やパブロ・ピカソの『鳥籠』など。実際にある作品が丁寧に描写され、紹介されています。
後から知ったのですが、大原美術館も実在する場所だそう。読後には絵画に愛着が出始めてくるので、そこに実際に行ってみたくなりました。
また、ここまで紹介してきた謎は作品の最後にはすべて明かされます。2人の勝負の行方はもちろんですが、『夢を見た』に隠されていた真実には驚かされました。(『夢を見た』は実在しないみたいです)
美術に興味がある人はもちろん、興味はないけど気になっている人まできっと楽しめる。というか読後には美術作品に興味を持っていることでしょう。また、ミステリとしても楽しめるので、その手の作品が好きな人も楽しめる素晴らしい小説でした。