降田天『朝と夕の犯罪』を紹介します。誘拐事件を仕掛けた兄弟。しかし、彼らを待ち受けていたのは予想外の結末だった。
別々の人生を歩み、10年ぶりに再会したアサヒとユウヒの兄弟。ふたりはある目的のため、狂言誘拐を実行に移す。その犯罪は成功したかに見えたが、思いもよらない結末を迎えることになった。
それから8年後、神倉駅前交番の警察官・狩野雷太は、マンションの一室で衰弱した男児を保護する。男児の傍らには、餓死した妹の亡骸があった。神奈川県警捜査一課の烏丸靖子は兄妹の母親を取り調べるが、彼女がかつて誘拐事件に巻き込まれていたことがわかり、状況は一変する。悲劇的な事件の裏に横たわる、さらなる衝撃とは――。
犯人がわかっている倒叙ミステリ。しかしこの後、何が起こるのか想像がつかない。それどころか犯人の真意が完全にはわからない。新感覚のミステリ小説です。
兄弟が起こした狂言誘拐
10年ぶりに再会したアサヒとユウヒの兄弟。彼らは児童相談所で育っていました。そこを出てから、どのように生きてきたのかをお互いに語り合います。
そんな中で、弟のユウヒは自分が関わっている児童相談所が経営危機に瀕していることを話します。現状を打開するにはお金が必要。
そこでユウヒはアサヒに誘拐事件をしようと持ち掛けるのでした。犯罪を手伝うことに渋っていたアサヒ。
しかし、これは狂言誘拐だと言うユウヒ。県議会議員の娘・松葉美織に協力してもらって、彼女と誘拐したことにするというのです。
渋々、協力することにしたアサヒ。計画は見事成功したかに思われたのですが、予想外の出来事が起こってしまうのでした。
誘拐事件の関係者による事件
狂言誘拐から8年後。交番勤務の狩野雷太は、近隣住民から異臭がするという通報を受けてマンスリーマンションを訪れます。
そこには餓死した女児と、かろうじて生きていた男児がいました。育児放棄・虐待として、彼らの母親を捜査する警察。
捜査の結果、吉岡みずきという女性が彼らの母親だったと判明します。そして、彼女は8年前の事件と関係のある人物なのでした…。
予想していなかったオチが待っている
本作は二部構成の物語になっています。最初にアサヒとユウヒによる狂言誘拐が行われる第一部。そこから8年が経った育児虐待事件が起こった第二部。
最初は何がどのように繋がっているのかがわかりませんでした。というのも、第二部の最初の方には第一部の登場人物があまり出てこないのです。
事件の全容が徐々に見えてくるにつれて、第一部とのリンクが少しずつ見えてきます。そして、後半になるにつれて「裏ではそんなことが起きていたの?」となる事実が姿を現します。
実は第一部が終わった時点でも、多少の謎が残っていたのですが、それも最後にはスッキリする。
倒叙ミステリのはずなのに、先が全く読めない。そして最後にはどんでん返しを用意している。過去作にも通じる、素晴らしい展開がありました。
【感想】予想外過ぎ!どんでん返しが渋滞してる一冊(降田天『彼女はもどらない』) 【感想】伏線が多すぎる!スクールカーストを舞台にしたミステリ(降田天『女王はかえらない』)犯人がわかっていても、何が起こるのか先が読めない。新感覚の倒叙ミステリを楽しみたい人にはオススメ!