芦沢央『火のないところに煙は』を紹介します。6つの短編が収録されている作品。不穏な雰囲気をまとったどこか怖い物語が楽しめます。
「神楽坂を舞台に怪談を書きませんか」突然の依頼に、作家の「私」は、かつての凄惨な体験を振り返る。解けない謎、救えなかった友人、そこから逃げ出した自分。「私」は、事件を小説として発表することで情報を集めようとするが―。予測不可能な展開とどんでん返しの波状攻撃にあなたも必ず騙される。一気読み不可避、寝不足必至!!読み始めたら引き返せない、戦慄の暗黒ミステリ!(「BOOKデータベース」より)
意味がわかると怖い話に似ているばかり。しかも、実話風になっているのが面白いポイントでした。ネタバレなしでそれぞれの作品を紹介していきます。
第一話 染み
8年前のある日、主人公のもとへ大学時代の友人から連絡が来ます。友人が不思議な現象に悩まされており、榊というオカルトライターを紹介してほしいというのです。
その現象とは、元カレが死んでから、彼女の身に不吉なことが起こっているというものでした。話を聞いていると、そこにはとんでもない事実が隠されているようで…。
オチがキレイに決まっていた作品です。元カレの怨念が悪さをしている。その理由とは一体何か。何を伝えたいのか。まさかのラストでビックリでした。そして怖い…。
第二話 お祓いを頼む女
「染み」を発表してから3ヶ月後。「私」のもとにフリーライターの君子さんから連絡がかかってきます。そして、彼女が体験した怪異について話を聞くことになります。
それは、自分は祟られているのでお祓いを受けさせてほしいという人の話でした。君子さんは話半分に聞きますが、自分だけではなく、息子にも被害が及んでしまったと言い…。
こちらも、最後の最後にスゴイ展開が待ち構えていました。あくまでも本当にそうなのかわからないですが、「私」の解釈では、ゾッとする出来事が裏にはあったのです。
第三話 妄言
次は、榊さんから教えてもらった話。塩谷さんという人が家を買った時の出来事です。中古でしたが中身が希望条件に合っており、隣人が優しかったことで購入を決めました。
しかし、入居後にこの隣人がおかしなことを言い出すのです。自分が浮気をしているというデマを妻に伝えたり、自分に殺されかけたなど、わけのわからない妄言を放ち始めてしまい…。
妄言の正体。それがわかった瞬間は鳥肌が立ってしまいました。シンプルに怖かった。一番、意味がわかると怖い話ぽさがありました。
第四話 助けてって言ったのに
ネイルサロンで働いている智世さんが体験した話。彼女は旦那さんの実家で生活を始めてから、ある怪異に悩まされてしまいます。それは、火事で自分が焼け死んでしまうというものでした。
霊媒師に見てもらうと、どうやら家自体に問題があることがわかります。彼女を助けるために、旦那さんは家を売ることにするのですが…。
これは怪異の怖さもあるのですが、人間の怖さをとても感じました。特に、悪意ではないからこその人間の怖さがありました…。後味が最悪な怖い話だったなと思います。
第五話 誰かの怪異
大学生の古永さんが古いアパートで一人暮らしを始めた時の話。家の排水溝から長い髪の毛が見つかったり、少女の霊を見たり、不可思議な現象に悩まされていました。
不動産屋に調べてもらうと、この部屋が事故物件だったということはない。しかし、それにはどうやら隣人が関係しているようで…。
こちらも第四話と同じような感じの作品。怪異で人が動かされたという感じの物語です。なんだかんだで人間はやはり怖いなと思います…。
最終話 禁忌
これまでの五話のオチとして、すべてに関する伏線を回収するための作品です。実はこれら五つの物語にはある共通点があったのでした。
こんな風に最後にまとめてくるとは思わず、作品全体として素晴らしいラストでした。結局最後まで、何が真実なのかわからない。読者に解釈を委ねさせる展開がお見事です。意味がわかると怖い話が好きな人にはぜひ読んで欲しい作品でした!