【感想】ほろ苦い青春を描いた6つの短編集(米澤穂信『いまさら翼といわれても』)

古典部シリーズもついに6作目。

今回紹介するのは、米澤穂信『いまさら翼といわれても』です。

「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」夏休み初日、折木奉太郎にかかってきた“古典部”部員・伊原摩耶花からの電話。

合唱祭の本番を前に、ソロパートを任されている千反田えるが姿を消したと言う。

千反田はいま、どんな思いでどこにいるのか―会場に駆けつけた奉太郎は推理を開始する。

千反田の知られざる苦悩が垣間見える表題作ほか、謎解きを通し“古典部”メンバーの新たな一面に出会う全6編。シリーズ第6弾!(「BOOK」データベースより)

2年生になった古典部を描いた短編集。

6つの物語が収録されています。

今までとは少し趣向が変わった作品構成の本作。

今回は、古典部の面々の過去やこれからが描かれています。

各物語をそれぞれ見てみましょう。

過去作はこちらから↓

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箱の中の欠落

ある日の夜。奉太郎のもとにかかってきた里志からの電話。

神山高校の生徒会会長選挙で起きた問題に関しての相談だった。

開票の結果、約40票も多い票数があったらしいのだ。

投票辞退者がいて減っているならまだしも、票が増えたのはなぜか?

誰かの悪意があるのは明確。奉太郎は里志とともに、選挙システムの穴を考えようとするが…。

ちょっと無理がありそうだなとは感じるものの、謎を解くヒントはしっかり提示されていたので良いかなと思いました。

相変わらず謎の提示から解決に至るまで流れがお見事。そしてテンポが良い。

幸先の良い物語の始まり方だなと感じました。

鏡には映らない

摩耶花の視点で語られる物語。

鏑矢中学時代の昔話です。

奉太郎が卒業制作を手を抜いてやってきたことを思い出した摩耶花。

当時は、奉太郎のことをそうした適当なやつと思っていたが、今は違う。

文集作りもちゃんとやっていたし、文化祭やほかのイベントでもちゃんとした働きをしていた。適当なことをする男ではない。

そんな彼がなぜ、卒業制作を適当にやってしまったのか?

『氷菓』の冒頭で、摩耶花が奉太郎を忌み嫌っていた理由が何となくわかりました。

摩耶花と奉太郎の距離が縮んでいることがわかる物語でしたね。

謎としては結構好きな部類でした。

まさか奉太郎が適当なことはしないよなと思っていたので、こうしたキレイなオチは大好きです。

連邦は晴れているか

こちらも中学時代の思い出話。

「鏑矢中学の英語教師、小木はヘリが好きだった」

奉太郎だけがなぜかこんな記憶を持っていました。

何よりも、データベースの里志も知らないことでした。

なぜこんなことを覚えているのか?

そしてこれは正しい情報なのか?

奉太郎は自ら推理をするのでした。

千反田にせがまれるでもなく、自ら推理を始める姿を古典部から揶揄されます。笑

しかし、それにもちゃんとした理由がありました。

今までと打って変わってちょっと悲しい物語です。

わたしたちの伝説の一冊

漫研内のトラブルで漫画を描かなければいけなくなった摩耶花。

しかし、アイデア用にまとめていたノートが盗まれてしまうのでした。

誰が何のためにそんなことをしたのか?

摩耶花には思い当たる節はあるものの、イマイチ腑に落ちず…。

本作で1番長い物語。

ちゃんと伏線も張ってあり、キレイに回収されるので面白いっちゃ面白いです。

ただ、焦点は摩耶花と漫研について。

個人的には、この構図があまり好きになれないので、読むのが少し大変でした。

長い休日

奉太郎のモットー。

「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に」

この考え方に至るまでの物語。奉太郎が小学生の時の話です。

小学生の時の奉太郎は校内環境係だった。主な役目は花壇の水やり。

そんなある日、同じ係だった田中さんのランドセルがなくなってしまいます。

先生も交えて、一緒に探した結果、ランドセルは無事に見つかりました。

しかし、この一件が理由で奉太郎はモットーを掲げるようになるのでした。

奉太郎の苦悩や考え方がわかるお話。

そして共感できるなと思いました。

世の中でうまく生きていくのは難しいなと改めて感じます。笑

謎の解明についても面白かったので、これが本作で1番好きなお話でした。

いまさら翼といわれても

千反田に関しての物語。

地域の合唱祭に参加するはずの千反田が、姿を消してしまったという。

ソロパートが任されているにも関わらず…。

千反田はどこに行ってしまったのか?

そして、責任感の強いはずの千反田が、なぜみんなの前からいなくなってしまったのか?

重い! とにかく重い!

正直、悩みの種にイマイチ共感できないなと思ったのですが、余韻を噛みしめるごとに辛さがわかってきました。

千反田が抱えている、千反田だからこその苦悩。

そして、その悩みに正面切ってぶつかろうとするも、何もできない奉太郎。

2人の持つ葛藤が、読んでいて苦しくなります。

それと同時に、「青春ってこんなに重苦しいものだったっけ?」となりました。笑

ほろ苦さ全開の物語。これはこれで味のある良いお話になっています。