2018年にミステリ賞を総なめにした『屍人荘の殺人』。「何を言ってもネタバレになる」という触れ込み、注目を集めた本作。2019年には映画化もされ大きな話題になりました。
今回紹介するのは『屍人荘の殺人』の続編。『魔眼の匣の殺人』です。本作では“予言”を題材にした本格ミステリになっていました。
その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は、予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人に死が訪れ、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに、客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。残り四十八時間。二人の予言に支配された匣のなかで、生き残り謎を解き明かせるか?! 二十一世紀最高の大型新人による、待望のシリーズ第2弾。
「二日間で四人が死ぬ」と予言された“匣”で起こる殺人事件。前作はある状況下での連続殺人でしたが、今回も似たような展開です。SF設定を駆使した論理的な推理は、本作でも健在。
クローズドサークルの作り方もそうですが、特別な設定を舞台にしたミステリがめちゃめちゃ面白い作家さんだなと改めて感じました。
予言をテーマにしたミステリ
葉村と比留子は、あることがきっかけで魔眼の匣を訪れることになります。そこには、未来を予知できる・サキミ様という存在が。彼女の予言は絶対に外れない特別なものでした。
八人の来客者を前に、サキミ様から「あと二日のうちに、四人が死ぬ」という予言をします。そして、来客者のうちの一人にも、何と未来を予知する能力があったのでした。
このように、今回は“予言”という非日常なテーマを扱ったミステリです。予言ありきでのトリックがあると考えてください。そして、このトリックの使い方がとても上手なんです。
この前提をもとにして、読者も推理はできるので、新しいタイプの本格ミステリです。
トリックはお見事!
先ほども説明した通り、今回は“予言”が存在する前提で話が進んでいきます。そして、本作のトリックにも“予言”は重要な意味を持っていました。
「こうじゃないかな?」というように何となくの推理はできるのですが、突き詰めるほどは組み立てられませんでした。ただ、かなり納得感のあるトリックだったので、「やられた…」という気分もキチンと味わえます。
ただし、2点残念に思う部分がありました。
1つは動機が弱すぎるという点。あり得るのかもしれませんが、あまり納得できるものではないなと感じました…。前提ありきのミステリなので仕方ないかもしれませんが、もう少しあったら良かったなと感じてしまいました。
もう1点は「どこまでが設定なのか?」が曖昧になっていること。推理をできるにはできるのですが、設定の線引きが、明らかになっていないため、「ここはトリックなのか?」を考える部分が多くなってしまいます。
こうした点を加味すると、個人的には前作の方がトリックは良かったなと思いました。
事件解決後にも驚きが!
ここまでトリックについて書いてきましたが、本作は事件解決後にもひと捻りあります。先ほど残念なポイントを書きましたが、すべてが明らかになった後の驚きはかなりのものでした。
事件の裏にあった、思惑や仕掛けられていた罠。「事件だけではなく、こんなところにも伏線が張られていたとは…」と感心してしまいました。
事件の犯人がすべてではない。金田一少年の事件簿にあった「露西亜人形殺人事件」にも近しい部分を感じました。
犯人とトリックが明らかになったからと言って安心してはいけません。下手したら、その後の驚きの方が大きいかもしれませんよ!